2004.5.10.
2005.5.20. 最終改訂
「合金の分析」ノート  吉村洋介

洋白中のニッケルの分離と定量

ニッケルはジメチルグリオキシム溶液を加えてニッケル塩 Ni(C4H7N2O2)2 を沈殿分離した後、キレート滴定で定量します。 ここでジメチルグリオキシムでニッケルを沈殿させる前に、ジメチルグリオキシムが銅と錯体を作って浪費されるのを防ぐため、銅を除いておく必要があります。 銅の除去は、旧版の「銅及び銅合金中のニッケル定量方法」JIS H 1056 の備考(現行版からは削除)、「アルミニウム及びアルミニウム合金中のニッケル定量方法」JIS H 1360 を参照して、金属アルミニウムで還元除去する手法を採用しました。

キレート滴定の手法は、「銅及び銅合金中のニッケル定量方法」JIS H 1056 を参照し、一定量の EDTA を加えてニッケルの EDTA 錯体を生成させた後、過剰の EDTA を亜鉛の溶液で滴定するという、逆滴定を採用しました。 ただし亜鉛の標準溶液を作るのが手間なので、市販の EDTA ナトリウム塩が純品であるとして滴定操作は行います。 なお JIS H 1056 などでは銅の除去に電解法を用いるのですが、銅の定量の場合同様、白金電極を調達するコストを考えて採用していません。

準備する溶液は次のとおり:

調製する溶液

☆ 0.02 mol/L 亜鉛溶液は、管理室であらかじめ用意してあるものを用いる。

ニッケルの定量の手順は次のとおりです。 なおグラスフィルターで沈殿をこして重量分析を行うことも可能で、希望者にはやってもらったりしています。

ニッケルの分離と定量

* 酒石酸を加えるのは、錯体を作らせて水酸化アルミニウムの沈殿を防ぐためです。 通常は上記指定量で酒石酸は足りるはずですが、長時間金属アルミニウム加えたまま加熱を続けた場合など、酒石酸の量が足りなくなります。 溶存アルミニウムが多いと、引き続くアンモニアでの中和操作の際に水酸化アルミニウムの生成にともなう白い濁りが生じます。 (さらに手順が進んで、ニッケルジメチルグリオキシムの沈殿に白い濁りが現れていることから発覚することもあります。) そうした場合には塩酸を加えて一端沈殿を溶解させ(加熱などして沈殿が熟成している場合には、塩酸を加えてしばらく加温)、酒石酸を追加してから、アンモニアによる中和を再度行ってもらいます。
水酸化アルミニウムの沈殿の生成のトラブルは、テキストどおり何も考えずにやる人より、自分で考えて気まじめに操作をやる人に起こりがちなようです。 あらかじめ、加熱時間を「10分間程度」と指定してあることの意味(ここでの操作では銅を完全に除く必要はなく、ジメチルグリオキシムを浪費しない程度まで減らせばよい)についてよく伝えておくのが、トラブルの予防策として最善かもしれません。

** ニッケルジメチルグリオキシムは酸性が強すぎても、また塩基性が強すぎても溶けてしまうので注意が必要です。 たまにメチルレッドが変色しても気づかずに、どぼどぼアンモニアを入れ、ニッケルジメチルグリオキシムが出てこないと悩んでいる人がいたりします。 そんな時にはまずアンモニア臭が強いかどうかチェックし、アンモニアが大過剰であれば塩酸を加えるように指示することにしています。

*** ニッケルのキレート滴定を逆滴定で行うのは、ニッケルと EDTA の反応が遅いためです(ニッケルはいわゆる置換不活性の遷移金属に分類されます)。 このため滴定の終点が、「赤みが消える点」ではなく、「赤みが出てくる点」になるのでかなり終点の判定が厄介です。 そこで例年、空滴定で十分腕を磨いてから、試料の滴定に移るように指導しています。 終点より入れすぎたケースについては、さらに EDTA を一定量精確に測りとって加え溶液を青色に戻してから、再度挑戦させることにしています。

**** EBT は数時間すると分解するので、その日のうちに滴定するように指示します。 なお一端ニッケル-EBT のキレートができると、EDTA 濃度をよほど上げないとニッケル-EBT のキレートはすぐには分解しません(室温、EDTA 濃度約 0.01 mol/Lで赤色が消失するのに約10 分かかりました。 今回の条件ではEDTA 濃度は 0.001 mol/L のオーダーなので、1時間以上かかることになります)。 ですからニッケルジメチルグリオキシムを溶解した液に EDTA 溶液を加え、しばらく攪拌してから EBT 指示薬を加えるという順序は非常に重要で、EBT 指示薬を最初に入れると、EDTA をいくら入れても赤色が消えないという事態に立ち至ります。 加熱したりすると EBT が分解することもあって、こうした場合の有効な手立てはまだ見つかっていません。


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