亜鉛は陰イオン交換樹脂を用いて吸着・溶離して分離した後、XO を指示薬として EDTA で滴定することで定量することにしています。
手法は「銅及び銅合金中の亜鉛定量方法」JIS H 1062 に則っていますが、洗浄・溶離に必要な塩酸・硝酸の量などは他の規格(「鉱石中の亜鉛定量方法」JIS M 8124 など)も参照してできるだけ少なく、また溶液の流下速度はできるだけ速く設定してあります。 なお JIS では鉄(III) の影響を除くために、アスコルビン酸+塩酸による洗浄を行うことになっていますが、用いている試料に鉄がほとんど含まれていないので省略しています(鉄(III)のクロロ錯体はかなり安定で、イオン交換樹脂で亜鉛のクロロ錯体と定量的に分離するのは困難)。
なお初年度の90年度は、ニッケルの分析でニッケルジメチルグリオキシムをろ過した際のろ液を、亜鉛の分析に用いるように分析操作を設計しました。 ろ液から pH を調整後、硫化アンモニウムで亜鉛を硫化物として沈殿させ、それを溶解させてキレート滴定にかけたわけです。 系統分析の空気を少しでも残しておこうとしてのことだったのですが、学生諸君の分析結果は、のきなみ20%近く亜鉛含量が予定より低いものとなりました。 ニッケルジメチルグリオキシムを作る段階でのロス、硫化亜鉛の沈殿を分離・洗浄する際のロスが響いたものと思われます。 そこで91年度からは系統分析にもはやこだわらず、イオン交換樹脂分離法を採用することにしました。
準備する溶液は次のとおり:
(2)塩酸(12 mol/L および 2 mol/L)
(3)硝酸(0.1 mol/L)
(4)アンモニア水(7 mol/L)
(5)EDTA標準溶液(0.01 mol/L): ニッケルの分析で使用したもの。
(6)酢酸-酢酸アンモニウム混液: 酢酸アンモニウム 25 g をイオン交換水に溶かして 100 mL とした後、酢酸 2.5 mL を加える。
イオン交換樹脂カラムの作成、亜鉛の吸着・溶離とキレート滴定の操作はそれぞれ次のとおりです。
(2)陰イオン交換樹脂を約 15 mL、何度かデカンテーションしながらメートルグラスに取る*。
(3)25 mL のビュレットに脱脂綿を入れ、陰イオン交換樹脂をイオン交換水とともに流し込み、樹脂柱を作る(おおむね樹脂柱の高さは 15 cm 程度になる)**。
(4)4 mol/L 水酸化ナトリウム溶液 40 mLを毎分 5 mL 程度の速さで流下させた後、イオン交換水を流下して溶出溶液が中性付近になるまで洗う。カラムから流出した溶液にフェノールフタレインを一滴加えて、その呈色が弱くなることを確かめる。(およそ 50 mL 程度必要)。続いて、2 mol/L 塩酸を 50 mL を毎分 5 mL程度の速さで流し、イオン交換樹脂を Cl-型にし、以下の実験に用いる。(2回目の実験の際には、水酸化ナトリウム溶液による洗浄処理を省略することができる。)***
* 陰イオン交換樹脂にはアンバーライト IRA-400(1.4 meq/1 mL) を用いています。 試料溶液 10 mL に含まれる亜鉛はせいぜい 0.2 mmol ですから、15 mL 程度のアンバーライト IRA-400 があれば、100 倍以上の吸着能があることになります。
** この樹脂柱を作る作業では、脱脂綿を多くとり過ぎないこと、そしてガラス棒などで強く押し込まないように注意します。 またイオン交換樹脂を流し込む作業は、気長に何回かに分けてやるのがよいのです。 あせって濃い懸濁液を流し込むと途中で詰まったりして、最初からやり直すことになります。 また詰め替えの際には、イオン交換樹脂のビーズがビュレットの先端の方に詰まらないように、よくイオン交換樹脂のビーズを洗い落としておかないといけません。
*** 樹脂柱が常に液体に浸っているように注意します。 樹脂柱に気泡が入ると容易には気泡は取れません。 よそ見していて液を出しすぎ、樹脂柱に気泡が入った時には、たいていの場合、イオン交換樹脂を取り出して詰め替えるのが最善です。
(2)2 mol/L 塩酸 150 mL でカラムを洗浄する。(流下速度は毎分 5-8 mL 程度)
(3)樹脂に吸着された亜鉛を 0.1 mol/L 硝酸 150 mL を用いて溶離しビーカーに受ける。(流下速度は毎分 5-8 mL 程度)
(4)溶出液に指示薬として p-ニトロフェノールを加え、7 mol/L アンモニア水で溶液の色がわずかに黄色になるまで中和する*。 次いで酢酸-酢酸アンモニウム混液 20 mL を加える**。
(5)XO を指示薬として 0.01 mol/L EDTA 溶液で滴定し、赤みが完全消えるところを終点とする。
* アンモニア水で中和する際に溶液が青紫色を呈する場合があります。 これは銅の分離が不十分だったためで、チオ硫酸ナトリウム溶液 (10%) 5 mL を加えて銅をマスクするように指示します。
** XO を用いる滴定の際には、pHを 5 から 6 程度にしておく必要があります( EBT に比して最適 pH の幅が狭いことに注意します)。 pH の設定が甘いと、いくら EDTA を加えても終点に達せず、泣きを見ることになるので注意が肝要です。 XO を指示薬にしたキレート滴定はこれが最初でもあるので、不安な人にはニッケルの定量で使う亜鉛溶液で練習してから滴定に臨むように言っています。