2020.5
吉村洋介
2 . 実験の基礎

2-3 温度測定と加熱操作

2-3-1 ガラス温度計による温度測定・転移温度の測定

<概要>

ガラス温度計で温度を測ることは小学校で学習するが、正確な温度測定には十分な注意が必要である。 通常のガラス温度計は、温度計全体を測定する温度 TX にした状態で、目盛り付けがなされる(全浸没)。 内部液の膨張率を α とし、温度計の球部・目盛りのない部分が温度 TX、目盛り部分が室温 TR になっているとすると、 目盛り部分は α(TX - TR) だけ収縮あるいは膨張する。 アルコール温度計(有機液体温度計)*1 では典型的には α ≈ 1 × 10-3 K-1なので、 正しく目盛られた温度計であっても、室温との温度差が100 Kあれば目盛り部の全長の10 %程度の誤差(浸没の誤差)が現れることになる。 同時にペン型温度計(サーミスター温度計)、放射温度計(資料編II-13参照)による温度測定も行い、 種々の温度計の使用法・特性・精度を確認する。また氷水等で均一な温度を実現するには十分な混合・攪拌が必要なことにも注意したい。

*1 赤温度計とも呼ばれる。アルコール温度計と呼ばれているが、今日内部液として通常使用されているのはケロシン(灯油)である。 破損したアルコール温度計があれば、内部液が水に溶けるかどうか確認してみよ。

<用意するもの>

  1. 500 mL~1 L程度の空のペットボトル(耐熱性(ボトルの口の部分が白いもの)で太っていないものがよい)

<実験>

  1. ビーカー(あるいはペットボトル)に砕いた氷を満たし、氷水を作る。
  2. アルコール温度計の球部だけを浸して温度を測り、次いで目盛り線の所まで氷水に浸して温度を測る。 ペン型温度計でも、シース(鞘)部の先端部を浸した状態、根元まで浸した状態で温度を測る。 放射温度計では氷水直上およびビーカー(あるいはペットボトル)の外部の温度を測って比較せよ。氷水をよく混合・攪拌して測定すること。
  3. 空のペットボトルの底を切り取る。
  4. ペットボトルがはまる程度の大きさのビーカーに水を入れ、バーナーで加熱してさかんに沸騰させる(以下沸騰した状態で測定を行う)。
  5. 温度計の20 °C程度より高い目盛り部分に蒸気があまり当たらないようにして、 アルコール温度計でビーカー内の沸騰水の温度を測る。ペン型温度計・放射温度計でも測る(放射温度計ではビーカーの外面の温度を測る)。
  6. 底を切り取ったペットボトル(保温鐘)を差し込んで、アルコール温度計全体が水蒸気に当たる状態にしてビーカー内の沸騰水の温度を測る。
  7. ペットボトルの保温鐘を外し、アルコール温度計で沸騰水の温度を(5)と同様に測る。
  8. 濡れた布等でガラス温度計の目盛り部分を冷やして示度の変化を調べる。
  9. 試験管に無水硫酸ナトリウムNa2SO4を 2 gとり、 水を 3 g加えて振り混ぜ、ペン型温度計で温度を測りながらしばらく様子を観察する(硫酸ナトリウムは完全には溶解しない)。 ここに用意してある十水塩Na2SO4·10H2Oの小片を加え (無水塩に水を加えた段階で十水塩が析出してきているなら加える必要はない)、 水和塩の生成とともに温度が何 °Cまで上昇するかを調べる。(資料編V-5参照)

<検討課題>

  1. 試験管にチオ硫酸ナトリウム五水塩Na2S2O3·5H2Oを 5 g程度とり、 試験管を60 °C程度の熱水中で加熱して融解させた*1 後放冷して、凝固する温度をペン型温度計で測定せよ。 結晶化が起きないようなら種結晶を入れてもよい。
  2. テトラヒドロフラン(THF)は4 °C 付近で水と 1:17 の包摂化合物 C4H8O·17H2Oを作ることが知られている。 試験管にTHFを 0.5 gとり、水 2.5 gを加えて氷水中で振り混ぜながら冷やし、 ペン型温度計で包摂化合物の生成する温度を測定せよ。 興味のあるものは、室温にもどした均一な混合溶液に、硫酸ナトリウムを0.4 g加えてよくかき混ぜて溶解させてみよ。 白濁が生じさらに温水で加温すると30 °C程度で相分離が確認できるであろう(塩析)。 この相分離した溶液を氷水で10 °C 程度まで冷却すると再び溶液は均一になり透明になる *2。 廃液は指針E2に従って処理する。

*1 自身の結晶水に溶解すると考えてもよい。
*2 塩がなくとも加圧下、THFと水は加熱すると70 °C程度で相分離を示すようになり(下部臨界温度)、 140 °C程度で再び全組成で均一に混ざり合うようになる(上部臨界温度)ことが知られている。


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