学生実験で出る廃液の中で、有害な薬品を含まない強酸の溶液は直接、強アルカリの溶液は一旦酸性にしてから、 過剰の炭酸水素ナトリウム(重曹)で中和して排出することにしている。 ここでは炭酸水素ナトリウム溶液のpHが、酸やアルカリの添加でどのような変動を示すのかを調べる。
図2-3 炭酸水素ナトリウム溶液に塩酸/水酸化ナトリウム溶液を加えた時の炭酸の各イオン種の濃度変化とpH変化の計算値。 炭酸イオンの総濃度cT = [H2CO3] + [HCO3-] + [CO32-]を 0.1 mol/Lとし、 そこに水酸化ナトリウムを加えた場合を +、塩酸を加えた場合を - にとってある。 炭酸の第1解離定数 pK1は6.4、第2解離定数pK2は10.3程度である(資料編V-15参照)。
余った塩酸や水酸化ナトリウム溶液は、中和処理して大量の水とともに流しに捨てることにしています (指示薬などが入っている時は活性炭カラムを通す)。 問題はこの中和処理で、 強酸を強塩基で中和しようとしても、容易には pH の値が 7 ±2 に収まってくれません。 ときどき pH 試験紙とにらめっこしながら、塩酸と水酸化ナトリウム溶液を交互に加え、 まさに酸塩基滴定している学生さんがいたりします。 この中和処理は、次のようにすればよいのです(重金属等が入っていないことを確認してから!):
特に pH試験紙など使わなくとも、 こうした処理で十分 pH が 7 ±2 に収まることを、 理屈立ててきちんと理解しておいてほしいというのが、 この課題の最大のポイントと言っていいでしょう。
たぶん図2-3 などは、その結果が示されておれば、「二塩基酸だから二段だよ」というわけで、 軽く読み流す人が大多数でしょう。 でも結果が示されず、炭酸水素ナトリウム溶液の pH 変化を図示してみろと言われると、 できる学生さんでも意外にとまどいます。 何か炭酸水素ナトリウムのみの状態で、pH 変動が極小になる(実際には半当量点が最小)ような気がするようです。
炭酸水素ナトリウムが大量にあれば pH は 8 程度。 そこに酸を加えて炭酸ガスが発生するようになれば、およそ炭酸の pK1 付近、 6.3 ぐらいに来ている。 そういったことを、理屈と体で(?)つかんでおいて欲しいわけです。