2020.10
吉村洋介
赤外分光

装置・測定法について

  1. フーリエ変換型赤外分光装置(FTIR)
  2. 透過型測定と窓材
  3. 全反射型吸収測定(Attenuated Total Reflection: ATR)

解説a: フーリエ変換型赤外分光装置(FTIR)

フーリエ変換型赤外分光装置(FTIR)の概略図を右に示す。 装置は光源、マイケルソン干渉計、試料設置部、検出器から構成されている。 干渉計では光源からの光をビームスプリッターで二分割し、 固定鏡と移動鏡で反射させたあと、同じビームスプリッターで1つに戻して干渉させる。 移動鏡の位置を変えながら光強度を記録するのがインターフェログラム(干渉信号)で、 2つの光路の位相差の変化で光強度が振動する。 単色なら光路差に対してその波長の周期で振動する正弦波が得られる。 干渉信号をフーリエ変換すると周波数が求められる。 実際の光源からの光は赤外線に広い周波数分布をもつが、 インターフェログラムのフーリエ変換でスペクトルが計算できる。 試料のある場合と無い場合で干渉信号を測定し、 ふたつの干渉信号から試料のある場合と無い場合の透過スペクトルをフーリエ変換で得れば、 その差スペクトルが試料の吸収スペクトルとなる。 (参考文献: 第5版実験化学講座9 「物質の構造I」p. 67~78, 日本化学会編, 丸善)

解説b: 透過型測定と窓材

Lambert-Beerの法則によれば、 波数 \(\tilde{\nu}\) で強度 \(I_0 (\tilde{\nu})\) の光が 濃度 \(c\) で厚さ \(L\) の試料を通った後の通った後の光の強度を \(I (\tilde{\nu})\) とすると、 吸光度 \(A(\tilde{\nu})\) に対し次の関係が成り立つ。

\begin{equation} A(\tilde{\nu}) = -\log_{10} \frac{I (\tilde{\nu})}{I_0 (\tilde{\nu})} = \epsilon(\tilde{\nu}) c L \label{eq:LB} \end{equation}

\(\epsilon(\tilde{\nu})\) を吸光係数と呼び分子固有の値を取る。 吸光度が試料濃度に比例するので、この法則は定量測定の根拠となる。

試料セルは、一般に赤外透過性の高い窓材を選んで構成する。

解説c: 全反射型吸収測定(Attenuated Total Reflection: ATR)

赤外領域で透明な窓材の屈折率が対象試料よりも大きな場合、 臨界角\(\theta_\mrm{C}\) より大きな入射角の赤外光は界面で試料側には伝播せずに全て窓材側へ反射される。 ただし、波長程度の深さ \(d_\mrm{p,1/e}\)だけ赤外光は試料中に浸み込む(エバネッセント波)ので、 赤外光の波長領域で試料が吸収を示す場合には反射率が1ではなくなり、 試料の吸収強度に応じて反射赤外光の強度は弱くなる。 このことを利用して赤外吸収スペクトルを得ることができる。 微弱な信号に対して多重反射型の構成を取ることもある。

注意点、特徴など

  1. 光学セルや前処理を必要とせず、容易に吸収スペクトルを得ることができる。
  2. 波長が長いほど浸み込みが深くなるので、低波数領域のスペクトルでバンド強度が相対的に増大する。
  3. 固体試料の場合、試料の窓材への密着度合いで吸収強度が変化する。
  4. 試料の屈折率は吸収バンド近辺で大きく変化して入射角が臨界角以上という条件を満たさなくなる事があり、 吸収ピークが低波数側にシフトしたり、低波数側に裾野を引いて形状の歪が生じることがある。
  5. 目的成分の濃度で屈折率が変化する場合、吸収信号と濃度の間に直線性が得られない。
  6. 入射角や窓材などの影響で、異なる装置で得られたスペクトルの精密な比較は難しい。


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