<概要>
鉄(III)のシュウ酸錯体のカリウム塩、トリスオキサラト鉄(III)酸カリウムK3[Fe(C2O4)3]·3H2O(式量491.24)
は比較的容易に合成でき、青写真に用いる感光材料としても知られている。
ここでは4-1で調製した原料鉄溶液を出発物質として合成を行ない、
含まれるシュウ酸量を過マンガン酸による酸化還元滴定で決定する。
4-2-1 鉄シュウ酸錯体の合成
<試薬>
- 【合成用】シュウ酸二水和物((COOH)2·2H2O、式量 126.07)
- 8 mol/L水酸化カリウム溶液:
水酸化カリウム(式量56.11)をイオン交換水に溶解して調製する。<容量分析の初歩>で使用した溶液を利用できる。
<操作>
- 調製した原料鉄溶液の半量をビーカーに取りホットプレートスターラーで加熱、
攪拌しながらシュウ酸二水和物10 gを徐々に加えて溶解させる(およそ40 °C程度で全量溶解する)。
- pHが5~6になるまで8 mol/Lの水酸化カリウム溶液を滴下していく(およそ25 mL程度必要)。
中和熱で温度が上がるが70 °C程度に温度を維持、しばらく攪拌を続けた後(少し濁りがあっても操作を続行する)放冷する。
温度が下がるに従って白色(少し褐色がかっていることもある)沈殿が生じる。
- 50 °C程度になるまで放冷し、生じた沈殿を熱時ろ過して除く(ここで生じるのは主にシュウ酸水素カリウム)。
- 得られた緑色のろ液を氷冷して結晶を析出させ、吸引ろ過して結晶を分取。小量の冷水で洗った後(注1)、ろ紙上で乾燥する。
- 粗結晶を熱水に溶かし、再結晶して精製する。暗所で自然乾燥し、遮光して保存する。
(注1)一端吸引を停止してから氷水を結晶全体が浸る程度に注いだ後、吸引を再開して水切りする。
4-2-2 鉄シュウ酸錯体の分析
<概要>
酸性条件下過マンガン酸で鉄のシュウ酸錯体に含まれるシュウ酸は定量的に酸化される。このことを利用して、トリスオキサラト鉄(III)酸カリウム中のシュウ酸含量を求める。
<試薬>
- 過マンガン酸カリウム(KMnO4、式量 158.02)
- 【特級】シュウ酸二水和物((COOH)2·2H2O、式量 126.07)
<操作>
- 過マンガン酸カリウムを約 0.15 g取り、
水 100 mL に溶かし褐色瓶に入れる(過マンガン酸カリウムが完全に溶解していることをよく確認しておくこと)。
- シュウ酸二水和物0.3 gを精密にはかり取り、メスフラスコを用い水に溶かして精確に100 mLにする。
- 精製したトリスオキサラト鉄(III)酸カリウム約0.5 gを精密にはかり取り(サンプリングについては資料編II-1参照)、
メスフラスコを用い水に溶かして精確に100 mL にする。
- シュウ酸溶液を、ホールピペットを用いて10 mL精確にコニカルビーカーに取り、
水30 mLと9 mol/L硫酸 2 mLを加え、過マンガン酸カリウム溶液の標定を行う。
(滴定初期は反応に時間がかかるので、シュウ酸溶液は60 °C程度に温めてから滴定した方がよい)
- トリスオキサラト鉄(III)酸カリウムの溶液を、ホールピペットを用いて10 mL精確にコニカルビーカーに取り、
水 30 mLと9 mol/L硫酸 2 mL を加え、シュウ酸溶液と同様に、過マンガン酸カリウム溶液で滴定する。
★過マンガン酸滴定に慣れる意味で、それぞれの滴定は複数回行うのが望ましい。
<研究>
- 鉄(III)のシュウ酸錯体の溶液(再結晶の際の余った溶液でよい)にヘキサシアニド鉄(III)酸カリウム(赤血塩)の0.5 mass%溶液を加えた液をろ紙を浸し、
日光に当ててみよ。(鉄(III)シュウ酸錯体中のFe(III)は光還元を受けてFe(II)となり、赤血塩と反応して青色のプルシャンブルーを生じる。
これを利用したのが青写真(日光写真)である)
<廃棄物処理>
- 鉄・マンガンを含む廃液は指針D-1に従って処理する。
二酸化マンガンの沈殿が生じている場合には、シュウ酸を加えて還元する。その他の廃液はすべて廃棄物指針Aに従って処理する。