last revised 2021.3. / 2020.5
吉村洋介

無機化合物の合成と分析

☆予習チェックのページへ

<概要>

無機化合物の合成と分析操作を通じて物質の変化のありさまに触れ、かつ基本的な化学薬品の取り扱いにも習熟することを期す。 ここでは鉄(III)の化合物、トリスオキサラト鉄(III)酸カリウム三水塩 K3[Fe(C2O4)3]·3H2O と鉄ミョウバン Fe(NH4)(SO4)2·12H2Oを取り上げる。 合成は2人組で行い、分析は同じ試料を用いて各自で行う。

容量分析の実験の後に、 鉄(III) の化合物の合成と分析の実験を用意しています。 「容量分析の初歩」では、酸塩基滴定・キレート滴定・沈殿滴定をもっぱら扱いますが、 ここでは容量分析に酸化還元滴定を使う仕様にしています(典型的な容量分析の類型はこれでコンプリート)。 また物質の磁性についても触れてもらおうと、 磁化率の測定も(ほとんどオプションですが)入れ込んでいます。

鉄シュウ酸錯体 K3[Fe(C2O4)3]·3H2O の結晶 鉄ミョウバン Fe(NH4)(SO4)2·12H2O の結晶(熟成)

今年度は新型コロナウィルス COVID-19 の問題がなければ、 昨年同様、次のような課題構成になるはずでした(鉄(III)塩溶液の調製にモール塩ではなく硫酸鉄(II)を採用するところ以外)。

  1. 鉄(III)塩溶液の調製
  2. 鉄シュウ酸錯体の合成と分析
  3. 鉄ミョウバンの合成と分析
  4. 鉄の塩の磁化率の測定

テキストのpdf版はこちら


それが日程の短縮、2人組の実験から単独実験への組み換えという事態を受け、 扱うのを鉄シュウ酸錯体 K3[Fe(ox)3] の合成に絞り、 「分析」や「磁化率」を削りこむことになりました。

エメラルド(鉄シュウ酸錯体)とアメジスト(鉄ミョウバン)の実験のはずだったのですが、 エメラルドだけになっていしまいました。 でもまあ日光写真(青写真)の世界を楽しんでください! ともあれ無機化学の世界を垣間見ていただければ幸いです。


無機化合物の合成と分析のこと

現在の「無機化合物の合成と分析」の課題の原型は、 1992年に「重量分析と容量分析」の課題(硫酸銅あるいは鉄ミョウバンについて実施。重量分析を行う関係で2週の課題)の中の鉄ミョウバンの分析に、 無機合成の要素を加えるところから始まりました。 当時の3回生の実験全体を見渡した時、無機合成の要素に乏しいことは明らかでした。 そこで合成して分析するという形の課題として、 再構成することにしたわけです。

無機合成といってもいろんな物質があります。 これまでは「身近なものから無機化合物を合成し分析する」ことを方針に、 身近なものから合成することにこだわってきました。 ちょっときいた風に言えば、 日常生活の中から危険なのものとして「化学物質」が締め出される中、 人間とのつながりを化学反応を通じて再確認したいということになるでしょうか。 ということでもっぱら金属鉄(空き缶、スチールウール、etc)に素材を求め、 鉄ミョウバン、モール塩、鉄シュウ酸錯体といったところを目的物質として設定してきました。 空き缶を拾ってきて、酸に溶かしたり、くつくつ煮たりしていると、 緑や紫の塩に変身する。 そうした感動の中から、学生諸君に“物質”との距離を縮めてもらえればという思いなのですが、 もう、なかなかそれは伝わらないようです。

5年ほど前であれば、空き缶でなくとも、溶解の容易なホッチキスの針やスチールウールなどを自分で用意してくる学生がいました。 それが自分で原料を用意しようともしない学生が9割以上、 用意してくるのが2、3人もいない状況になってしまいました。 このような状況では、もうこちらから「化学物質」の形で素材を提供することの方が望ましいのかもしれません。 というわけで昨年から方針変更。 最終的に作る物質は以前と同様に鉄の塩なのですが、 現行のテキストでは出発物質は試薬として購入した硫酸鉄(II)というところになっています。 それならそれで、もっと自由に絵を描いてみてもいいでしょう (以前も、乾電池から取り出したマンガンから 過マンガン酸カリウムを合成する課題に挑戦したことがあります。 結局、在庫にあった試薬の二酸化マンガンを使ったのですが・・・)。 ここらへんはこれからの皆さんに期待したいところです。


表紙のページへ