<概要>
ミョウバンは一般式M(I)M(III)(SO4)2·12H2Oで表される含水結晶であり、
1価のイオン(Na, K, Rb, Cs, Tl, NH4など)と3価の金属イオン(Al, Cr, Ga, Feなど)を含む複合塩である。
通常Fe(NH4)(SO4)2·12H2O を鉄ミョウバンとよぶ。
鉄ミョウバンは溶解度が高い上に風解しやすく、取り扱いには注意が必要である。
ここでは 4-1で調製した鉄溶液を出発物質とした合成を行ない、アスコルビン酸還元・ヨウ素逆滴定法で鉄(III)の含量を決定する。
4-3-1 鉄ミョウバンの合成
<試薬>
- 硫酸アンモニウム
- 9 mol/L 硫酸
<操作>
図4-1.簡易デシケーター。底に食塩の飽和溶液を入れ、
試料は円錐形に折ったろ紙の中に入れておく。
- 【簡易デシケーターの作成】500 mLのペットボトルを切断し、右図のような簡易デシケーターを作成する。
デシケーターの底の部分には、食塩約10 gと水10 mL程度を混合して調製した食塩-飽和食塩水混液を入れておく*1 。
- 調製した原料鉄溶液の半量をビーカーに取り、加水分解を防ぐために9 mol/L 硫酸を1 mL加え、
セラミック金網上でバーナーを用いて加熱濃縮して約30 mLにする(煮詰めすぎないように注意する*2)。
- 硫酸アンモニウム5 gを、(2)の溶液に加え溶解させる。
- 溶液を冷やして結晶が出始めたら、氷冷して結晶を析出させる。
(結晶が析出しにくい場合には、器壁をガラス棒でこすってみよ。それでもだめなら種結晶を入れてみる。)
- 吸引ろ過し、結晶を分取する(注1)。
- 得られた粗結晶を少量の熱希硫酸(20 mLの水に9 mol/L硫酸を数滴加えた程度。
希硫酸の量は得られた鉄ミョウバンの量のおよそ倍量程度までに止める)に溶かし、再結晶して吸引ろ過し、結晶を分取する(注1)
(鉄ミョウバンの溶解度は大きいので、溶液の量が多くなり過ぎないように注意する)。
以降の分析実験には、およそ2 gの鉄ミョウバンが必要である。得られた鉄ミョウバンの量が少ない時には、再結晶操作を省略してよい)。
- 得られた結晶は(1)で作成した簡易デシケーターに入れ、ラップして一晩乾燥させる。
*1 急ぐ時には塩化カルシウム(脱水用。水分を15 wt%程度含有)約10 gと水5 mL程度を混合して調製した、
塩化カルシウム六水和物とその飽和溶液のシャーベット状の混液を使用してもよいが、
長時間おくと鉄ミョウバンが風解することがある。定湿溶液については資料編V-2参照。
*2 硫酸鉄の低水塩は一端析出すると、水を加えても容易には溶解しない。
(注1)一端吸引を停止してから氷水を結晶全体が浸る程度に注いだ後、吸引を再開して水切りする。
4-3-2 鉄ミョウバンの分析
アスコルビン酸で鉄(Ⅲ)は鉄(II)に還元される。またヨウ素酸は酸性条件下でヨウ化物イオンと反応してヨウ素を遊離するが、アスコルビン酸が存在するとヨウ素はヨウ化物イオンにまで還元される。このことを利用して、まず所定のアスコルビン酸溶液と鉄(III)を反応させ、次にこの溶液をヨウ素酸カリウム標準溶液で逆滴定(過剰のアスコルビン酸を滴定)することによって、鉄(III)の量を求める。アスコルビン酸溶液は容易に空気酸化を受けるので、調製後その日のうちに使用するのが望ましい。
<試薬>
- 20 w/v% ヨウ化カリウム溶液:
ヨウ化カリウム4 gを水に溶かして20 mLにする。(「合金の分析」でも使用するが、分解しやすいので作り置きは薦めない)
- 0.01 mol/Lヨウ素酸カリウム標準溶液100 mL:
ヨウ素酸カリウム(KIO3 式量214.00)約0.214 gを精密にはかり取り、イオン交換水に溶かしメスフラスコを用い精確に100 mLにする。
- アスコルビン酸溶液:
L-アスコルビン酸(C6H8O6 分子量 176.13) 約0.45 gをイオン交換水に溶かし100 mLにする。
- 6 mol/L塩酸
- 溶性でんぷん溶液(用意してあるものを使用する):
可溶性でんぷん1 gにイオン交換水10 mLを加えて混和したものを、熱イオン交換水200 mLを加え1分間煮沸する。
<操作>
- 鉄ミョウバン約2 gを精密にはかり取り(サンプリングについては資料編II-1参照)、
イオン交換水に溶かし、6 mol/L塩酸を数滴加えた後、メスフラスコを用い精確に100 mLにする。
- [空滴定] アスコルビン酸溶液10 mLを精確に取り、水20 mL及び、6 mol/L塩酸1 mL、ヨウ化カリウム溶液1 mL、
でんぷん液数滴を加え、ヨウ素酸カリウム溶液でヨウ素でんぷんの青色が現われるまで滴定する。
- 鉄ミョウバン溶液10 mLを精確に取り、ここにアスコルビン酸溶液10 mLを精確に加え、
さらに水10 mL及び6 mol/L塩酸1 mL、ヨウ化カリウム溶液1 mL、でんぷん液数滴を加えた後、60-70 °C まで加熱する。
- 少し冷めたところ(50 °C 程度)で、ヨウ素酸カリウム溶液でヨウ素でんぷんの青色が現われるまで滴定する
(あまり溶液が熱いと、ヨウ素-でんぷん反応による呈色が見づらくなる)。
★ヨウ素滴定に慣れる意味で、それぞれの滴定は複数回行うのが望ましい。
<研究>
- 得られた鉄ミョウバンを試験管に小量とり、熱水中につけて融解挙動を調べて見よ。
<廃棄物処理>
- 鉄を含む廃液は指針D-1に従って処理する。その他の廃液はすべて廃棄物指針Aに従って処理する。