物体を磁場の中におくと、作用する磁場に応じて磁気分極Mが生じる。 多くの場合磁気分極Mは磁場Hに比例するものとみなせる(Bは磁束密度、μ0 は真空の透磁率(磁気定数)≈ 4π × 10-7 H m-1):
M = χ μ0 H (4.1)
B = μ0H+ M = μ0 (1 + χ) H = μ H (4.2)
この比例係数 χ を(体積)磁化率、μ を透磁率、μ/μ0(= 1 + χ)を比透磁率と呼ぶ。 磁化率が負の場合を反磁性(diamagnetism。水や有機液体などで典型的には ~ -10-6)、 正であまり大きくない場合(典型的には~0.001)を常磁性(paramagnetism)、 正で大きい場合(~1000)を強磁性(ferromagnetism)と呼ぶ。 今回合成したトリスオキサラト鉄(III)酸カリウム、鉄ミョウバンはいずれも常磁性を示す (ここではE-H対応の立場から記述し、CGS emu単位系を採用する。詳細については資料編II-16参照)。
常磁性を示すのは鉄の塩に含まれている鉄イオンがそれぞれあたかも微小な磁石として振舞うためだと考えると、 磁化率 χ は物体の密度 ρg あるいはモル密度 ρm に比例する。
χ = ρg χg = ρm χm (4.3)
ここで χg を質量磁化率、χm をモル磁化率と呼ぶ。 もし鉄イオンの磁気的な性質が配位子などの周囲環境によって変化しないと考えると、 χm は鉄シュウ酸錯体でも鉄ミョウバンでも同じ値になることが期待される。
磁化率の測定にはSherwood Scientific社製の磁気天秤MSB-MKIを用いる。 この磁気天秤では不均一な磁場中に試料を置いた時に働く力を測定し、標準物質の場合と比較することで試料の磁化率を測定する。 今回は硫酸アンモニウム鉄(II)六水和物(Fe(NH4)2(SO4)2·6H2O、式量 392.13。モール塩と呼ばれる。 室温での質量磁化率を32.3 × 10-6 cm3 g-1(CGS emu)とする) を標準物質として用い、鉄シュウ酸錯体と鉄ミョウバンの磁化率を決定する。
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