last revised 2020.11 / 2020.10
吉村洋介
0.物理化学・物性化学実験の準備

II. CHEMUSB4分光光度計による反応の追跡

<概要>

吸光度の変化の測定は反応速度を研究する上で有用な手法である。 ここではよく知られた、アルカリ性条件下でのメチレンブルーのグルコースによる還元反応をCHEMUSB4分光光度計を用いて追跡し、 吸光度変化の測定に習熟することをめざす。 メチレンブルーは還元されると無色のロイコ体となり、ロイコ体は容易に酸素酸化を受けて青色のメチレンブルーに戻る。

<試薬>

  1. 5 %グルコース溶液(1つの机で10 mL程度調製すればよい。IVでも使用する)
  2. 1.0 mol/L水酸化ナトリウム溶液(用意してある溶液をそのまま使用)
  3. 0.05%メチレンブルー溶液(用意してある溶液をそのまま使用)

操作

  1. CHEMUSB4分光光度計を起動し、資料編II-10を参考に5~10秒間隔で3~5分程度の間スペクトルを保存するようにセットする。
  2. 5%グルコース溶液2 mLを光学セルに取り、ここに1.0 mol/L水酸化ナトリウム溶液0.5 mLを加える(天秤を用いて測り取ってもよい)。
  3. メチレンブルー溶液を2滴程度加えてよく混ぜ、ただちに吸収スペクトルの時間変化の測定を開始、 スペクトル変化の記録を行う。 失敗した場合には、スペクトル保存の設定をやり直し、 光学セルを振り混ぜて溶液の色が青に戻ってから、再度測定を行えばよい。
  4. 典型的な2~5種類の波長(たとえば665 nm、305 nm、295 nmなど)の吸光度の時間変化を資料編II-10を参考に測定せよ (ストリップチャートを利用する)。

<検討課題>

  1. Igorを用いて吸収スペクトルの時間変化を重ね書きして、時間とともにどのような変化が現れるか調べよ。
  2. 吸収スペクトルの時間変化のデータから、典型的な波長(たとえば665 nm、305 nm、295 nmなど)の吸光度の時間変化を抽出して吸光度の時間変化を図示せよ。 またストリップチャートを用いた結果も図示し、測定・解析の上での得失を考察せよ。

実験例

図 II-1. メチレンブルー溶液の10秒おきの吸収スペクトル変化。 図 II-2. メチレンブルー溶液のいくつかの波長での吸光度の時間変化。

CHEMUSB4分光光度計による反応の追跡のこと

ここでは分光光度計を使って、吸光度の時間変化のモニター法を練習してもらいます。 題材として採用しているのは、高校の化学クラブなどではおなじみの「青いフラスコの実験」。 無色のフラスコを振り混ぜるとメチレンブルーのロイコ体が空気酸化を受けて青くなり、 しばらく置いておくとグルコースで還元されてロイコ体に戻って、 また無色になるという文化祭の出し物などでよくあるものです。 もし分光光度計の操作に失敗して、時間変化がうまく取れなくても、 もう一度光学セルを振り混ぜるだけで、納得いくまで繰り返し実験ができます。

図 2a. 青色が消える。 ここでシャカシャカ振り混ぜる。 図 2b. 青くなる。 図 2c. 待つことしばし。 色が消えてくる。 図 2d. 色が消える。 空気と触れている液面近傍は青が残る。 ここでまた振り混ぜると青くなる(2b へ)。

ただこの反応、 メチレンブルーのロイコ体の酸化還元だけで済ませられるほど単純ではありません。 可視部だけに注目すれば、溶存酸素の減少にともない、 急速にロイコ体への還元が進んで吸光度が減少するということでよいのですが、 300 nm 付近の紫外部の吸収を見ていると、 「その後の話」のあることがわかります。 可視部の吸収が急速に失われる一方、 紫外部にゆっくり増加していく成分があるのです。

おそらくロイコ体への還元に際して、何らかの配糖体のようなものが生成し、 その分解を見ているのだろうと予想はしますが詳細は不明。 有名な反応なので、何が起きているのか、 もう誰か詳しい研究をしているはずだと思うのですが、 まだそれらしい文献・情報に出会えていません。 ご存じの方あれば、ご教示願えればありがたいところです。


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