2020.10
吉村洋介

0.物理化学・物性化学実験の準備

ちょっと本格的な物理化学・物性化学実験に入る前に、さまざまな物性値の測定や測定データの処理に慣れてもらう意味で、 以下の簡単な予備的実験に取り組んでもらいます。

  1. 電解質溶液の電気伝導度の測定と電気伝導度滴定
  2. CHEMUSB4分光光度計による反応の追跡
  3. 気体の粘度
  4. 粉末X線パターンの測定と解析

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準備実験のこと

2013年度から、折からの学年歴の改定を受けて、物理・物性化学実験の始めに、 足慣らしの実験を設けることにしました。 初歩的な物理化学実験にほとんど触れることなく、 電流や電圧の測定はもとより、PCを利用したデータの取り扱いに不慣れなまま、 物理・物性化学実験に臨むことになるギャップを少しでも解消しようという意図でした。 当初はサーミスターを使った凝固点降下の実験が入っていたのですが、 翌年2014年度、反応速度についての課題を検討している中で、 前期の蒸留の課題が軌道に乗ってきたこともあって、 気体の粘度の課題と差し替えることにしました。

学生実験では、科学技術用のグラフ作成ソフトとして Igor Pro を使用しています。 Igor Pro は Wavemetrics 社の製品で、 古くから特に分光関係の研究者に人気があります。 さまざまな分野に多くのファンがいて、 学生実験のスタッフにも熱心な evangelist がおられ、 何より Wavemetrics 社の用意しているお得な coursework license が利用できることから、 2007年度から採用することになりました。 ぼくは個人的には今も変わらず KaleidaGraph のファンですが・・・

Igor Pro は高機能でなかなか使い出があるのですが、 それだけに敷居の高いところがあり、 持て余して、撫でる程度(かする程度?)で終わる学生が、導入当初から結構いました。 それがここ数年、持て余す傾向が目に余るようになってきたように感じています。 だいたいがオフィススイート(学生実験で想定しているのは MS Office と Libre Office。 長いものに巻かれるのは好きではないですが、最近は MS Office に特化しています)の表計算ソフト (excel、calc)の初歩的な使用法さえ怪しい学生が増えてきました。 そこで以前は前期の実験でも Igor に触れるようにしていたのを、 2年前からすべて後期にシフトさせ、 前期の実験は表計算ソフトに親しむことに徹することにしています。

そうした空気の中では、 この準備実験が Igor Pro の訓練のように見えるのはやむを得ないかもしれません。 しかしぼくが期待するのは、 用意された一見他愛ない課題の向こうにある「化学」を捕まえてくれることです。 そういったお説教は、学生諸君から見ればアンチ Igor 派の老人のうわごとに過ぎないかもしれませんが。


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