2020.5
吉村洋介
8. 光吸収を用いた溶存化学種の定量

8-1-2 温泉水中の鉄・アルミニウムの定量

<概要>

通常の河川や飲料水のpHは5~8程度で、溶存する鉄・アルミニウム濃度は水酸化物の沈殿が起きるため極めて低い*1。 しかし温泉・鉱泉の中にはpH 2程度の強酸性のものがあり、鉄・アルミニウム濃度が100 ppm以上になるものも知られている。 ここでは別府で採取された温泉水の中で「酸性・含硫黄・鉄(II, III)-アルミニウム-硫酸塩泉」(旧称:酸性含明礬・緑礬泉) に分類される温泉水中の鉄とアルミニウムの定量を行う。 鉄は8-1-1の操作に従って鉄フェナントロリン錯体として発色させ、(1)目視及び写真の画像解析による較正溶液との比較(比色法)、 (2)分光光度計を用いた吸光度測定(分光光度法)、によって定量する。 アルミニウムの定量は、鉄の定量に用いた残液にオキシン(8-キノリノール)を加え、生成したアルミニウムのオキシン塩を酢酸エチルで抽出して、 その吸光度を測定することで行う(鉄もオキシンと不溶性の塩を作るが、鉄の定量残液中ではフェナントロリン錯体としてマスクされる)。 なおアルミニウムについても鉄同様、標準溶液の採取量を変えて較正溶液・検量線を作成することが望ましいが、 時間の関係もあって、典型的と思われる1種類の濃度について吸光度を測定することでよいことにしてある。

*1 ただし地下水など還元的な雰囲気では鉄は鉄(II)の形で相当程度溶存することがある。いわゆる「金気の強い水」である。

<操作:鉄の定量>

  1. 試料水のpHを測定する。
  2. 10 mLのメスフラスコにメスピペットを用いて試料水1.0 mLを精確にとる。
  3. 6 mol/L塩酸0.4 mLを加えた後、塩化ヒドロキシルアンモニウム溶液0.1 mLを加えて振り混ぜる。
  4. 1,10-フェナントロリン溶液0.5 mLと酢酸アンモニウム緩衝溶液1 mLを加える。
  5. イオン交換水を加えて精確に10 mLにする。
  6. 調製した試料溶液をポリスチレン(あるいはPMMA)製の光学セルに取る。
  7. 【吸光光度法】イオン交換水をリファレンスにして、510 nm付近での吸光度を測定し、 8-1-1で決定した検量線を用いて鉄の濃度を求める。
  8. 【比色法(肉眼観察)】試料溶液を入れた光学セルを、較正溶液を入れた光学セルと並べて置き、肉眼で鉄の濃度を推定する(背景に白い紙や色紙をおいたりして、どうすれば判別しやすいか工夫する)。
  9. 【比色法(画像解析)】試料溶液と較正溶液の色の違いが明瞭になるように工夫し、スマートフォンなどを利用して写真を撮る。
  10. ImageJなど適当な画像処理ソフトを用い、得られた画像データを解析して試料溶液の濃度を求めて、吸光光度法の結果と比較する。(試料溶液は次のアルミニウムの定量で使用するので捨てない)

図8-3. 吸光光度法(a)および画像解析による比色法(b)による濃度決定例。 (a)ではベールの法則から予想される直線関係を用い、測定した試料の吸光度から濃度を決定。 (b)はスマートフォンで撮影した画像ファイルのRGBのBの刺激値を用い、 較正溶液の画像のB値の濃度依存性から、試料溶液の画像のB値に対応する濃度を読み取って濃度を決定。

<操作:アルミニウムの定量>

注意:ポリスチレン(あるいはPMMA)製の光学セルは有機溶媒に侵されるので使用しないこと

図8-4. 典型的なアルミニウムのオキシン塩の吸収スペクトル。 点線はブランクのスペクトル。酢酸エチル中

【ブランクの測定】
  1. 遠沈管(15 mL)にイオン交換水3 mLを取る。
  2. オキシン溶液0.5 mLを加える。
  3. 酢酸アンモニウム緩衝液2 mLを加えて振り混ぜる。
  4. メスピペットで酢酸エチル4 mLを精確に取って加え、遠沈管に蓋をしてよく振り混ぜる。
  5. しばらく静置し、上層の酢酸エチル層をスポイトでUV用プラスチック光学セルに分取して、 酢酸エチルをリファレンスにして、385 nm付近の吸光度を測定する(A0とする)。 水層が混入した場合は乾いたろ紙でろ過して除けばよい。
【測定】
  1. 遠沈管(15 mL)にメスピペットを用いてアルミニウム標準溶液 1.0 mLを精確に取る。
  2. イオン交換水を 2 mL加える。
  3. オキシン溶液 0.5 mLを加えて振り混ぜる。
  4. 酢酸アンモニウム緩衝液 2 mLを加えて振り混ぜる(沈殿ができてもそのまま次の操作に移る)。
  5. メスピペットで酢酸エチル4 mLを精確に取って加え、遠沈管に蓋をしてよく振り混ぜる。
  6. しばらく静置し、上層の酢酸エチル層をスポイトでUV用プラスチック光学セルに分取して、酢酸エチルをリファレンスにして、 385 nm付近の吸光度を測定する。水層が混入した場合は乾いたろ紙でろ過して除けばよい。
  7. アルミニウム標準溶液に代えて、温泉水の鉄の定量残液を用い(1)~(6)の操作を行う。
  8. アルミニウム標準溶液(濃度cst)の場合の吸光度Astと鉄の定量残液の場合の吸光度Aから、 鉄の定量残液中のアルミニウム濃度を cst × (A - A0)/(Ast - A0) の関係から求める。

<検討>

  1. 今回の鉄の定量の実験で、比色法と吸光光度法の精度はそれぞれどの程度か?
  2. 比色法と吸光光度法の長所・短所を挙げてみよ。
  3. 元の温泉水中の鉄とアルミニウムの濃度はそれぞれ何 mg/L か?

<廃棄物処理>

  1. 余った酢酸アンモニウム緩衝液、鉄標準溶液およびヒドロキシルアミンを含む廃液は、鉄含量が微量であるので、廃棄物指針Aによって処理する。
  2. フェナントロリン、オキシンを含む溶液は、廃棄物指針Bにしたがって処理する。
  3. 酢酸エチルを含む溶液は廃棄物指針E2にしたがって処理する。


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