pH計は水素イオン濃度の異なる溶液間の電位差を測定することでpHを測定する。 ここではその基礎となる知見を得るため、濃度の異なる硝酸銀溶液間の電位を、金属銀を電極として測定する実験を半定量的なレベルで行う。
以下の試薬はいずれも用意してあるものを使用する。
*1 U1251Aの50~1000 mVレンジでの内部抵抗は1 GΩ 以上、5~1000 Vレンジの入力インピーダンスは10 MΩ とされている。 レンジを切り替えた時に表示される電圧が変化するかどうか調べてみよ。 より精密な測定にはポテンショスタットと呼ばれる構成・装置を用いて電流値が 0 になる電位差を測定する手法が用いられる。
サンプル管AとBに銀線を浸して電圧を測る時、銀線の表面では
Ag+ + e- → Ag
という反応が起き、同時にAとBの間でイオンのやり取りが起きる。 かりに q F だけの電荷が電圧計を通じてAからBに移動したとすると(F はファラデー定数 ≅ 9.65 × 104 C mol-1)、 ろ紙の短冊を介して tAg q の銀イオンと tK q のカリウムイオンが B から A に、 tNO3 q の硝酸イオンが A から B に移動し、銀イオン濃度はA中では (1 - tAg) q 減少し、B中では(1 - tAg)q 増加する。 今回の実験条件ではカリウムイオン濃度は銀イオン濃度より十分大きくtK 〉〉 tAg ∼ 0で、 また A と B 中のカリウムイオンと硝酸イオン濃度は等しいとみなせるので、 測定される電圧 E は Nernst の式を用い次式で表される(Rは気体定数、Tは熱力学温度、|Ag+|は銀イオンの活量):
\begin{equation} E = \frac{RT}{F} {\ln \rm{ \frac{|Ag^+|_B}{|Ag^+|_A}}} \approx \frac{RT}{F} \ln \frac{c_{\rm{B}}}{c_{\rm{A}}} \label{eq:Nernst} \end{equation}
室温付近では
\begin{equation} E \approx \frac{RT}{F} \ln \frac{c_{\rm{B}}}{c_{\rm{A}}} \approx 59 {\rm{~mV}} \times \log \frac{c_{\rm{B}}}{c_{\rm{A}}} \label{eq:NernstX} \end{equation}
ここで B に塩化カリウム溶液を十分量加えると塩化銀が沈殿し、 この時の銀の濃度は塩化銀の溶解度積を pKs (= - log Ks = - log [Ag+][Cl-]) とすると次式で与えられる:
\begin{equation} \log {\rm{[Ag^+]_B} = -p} K_{\rm{s}} - \log {\rm{[Cl^-]_B}} \label{eq:solProduct} \end{equation}
この場合の電位差は塩化物イオンが加わって事態は複雑だが、おおむね次式が成り立つことが期待される:
\begin{equation} E = \frac{RT}{F} {\ln \rm{ \frac{|Ag^+|_B}{|Ag^+|_A}}} \approx E_{\rm{BA}} - (59 {\rm{~mV}}) \times (\log c_{\rm{B}} + {\rm{p}} K_{\rm{s}} + \log \rm{[Cl^-]_B}) \label{eq:NernstY} \end{equation}
ここで EBA は塩化カリウムを入れる前の電位差である。 この関係を用い、測定される電位の値を用いて塩化銀の溶解度積を評価できる。
<検討>