2020.5
吉村洋介
3 . 容量分析の初歩

3-3 環境水の分析

<概要>

身近な水道水、河川や池などの水の硬度、アルカリ度(酸消費量)および化学的酸素要求量(COD水質汚濁物質の指標)の測定を行う。 水道水や河川等の硬度は降雨や季節によって大きく変動し、精密な濃度の決定はあまり意味がない。 ここでは1/100程度までの精度での分析を行う。

3-3-1 硬度

<概要>

水道水、河川や池などの水に含まれるカルシウムとマグネシウムの合量を、炭酸カルシウムCaCO3の量に換算した濃度をmg/L単位で表して水の硬度(hardness)と呼ぶ*1 。 またカルシウム、マグネシウムの濃度をmg/L単位で表してカルシウム硬度、マグネシウム硬度と呼ぶことがある。 実験4-2-1と同様にして、種々の試料水に含まれるカルシウムとマグネシウムとを定量する。

*1 水の硬度は実生活(飲料・洗濯用水等)と密接に結びつく指標で、 それぞれの国の歴史・地理的な事情等を反映して、採用される硬度もちがってくる。 これはいわゆるアメリカ硬度で、炭酸カルシウムの式量がおよそ100なので、 カルシウムとマグネシウムの合量1 mmol/Lが硬度100に相当する。 酸化カルシウムCaOに換算する流儀もあり(ドイツ硬度)この場合mg/100 cm3を単位にとるので、 1 mmol/Lは硬度5.6に相当する。

<試薬>

  1. 0.01 mol/L EDTA溶液
  2. 塩化アンモニウム-アンモニア緩衝溶液(実験3で調製したもの。実験6でも使用する)
  3. 8 mol/L水酸化カリウム溶液(実験5でも使用するので捨てない)

<操作>

  1. [カルシウムとマグネシウムの合量の定量] 試料水20 mLをメスシリンダーを用いてはかり取り(注1)、 塩化アンモニウム-アンモニア緩衝溶液1 mL、EBT指示薬を加え、0.01 mol/L EDTA溶液で滴定する。
  2. [カルシウムの定量] 試料水20 mLをメスシリンダーを用いてはかり取り(注1)、 駒込ピペットを用いて8 mol/L水酸化カリウム溶液2 mLを加え、NN指示薬を加えた後、0.01 mol/L EDTA溶液で滴定する。

(注1) 密度を1.00 g mL-1として天びんで秤量してもよい。精度は ±0.5 mL程度で十分である。

<検討>

  1. 試料水中のカルシウムとマグネシウムの濃度を求めよ。また水の硬度を求めよ。

3-3-2 アルカリ度(酸消費量)

<概要>

アルカリ度*1 は水中に溶存する炭酸水素イオンなど、塩基性成分の濃度の指標で、 試験水をあるpHに中和するのに必要な酸量から算出される。 通常は試料 1 Lの中和に必要な酸量(水素イオン量)のmmol数、あるいは酸量に相当する炭酸カルシウムの質量の mg数で表示する。 多くの場合、pH 4.5~5にするのに必要な全アルカリ度ATが重要で*2 、 今回の実習でもこの全アルカリ度を決定する。 塩基性の強い水(pH > 8.3)では混合アルカリ度 AP も重要になるが今回は扱わない*3

もし水中に塩基として炭酸塩成分しかなければ、おおむね次の関係が成り立つ:

AT ≈ 2[CO32-] + [HCO3-] + [OH-]   (4.4) AP ≈ [CO32-] + [OH-]    (4.5)

pH 8.3以下の水については定義からAp = 0であり、 またATは炭酸水素イオン濃度 [HCO3-] として扱うことができる。 したがってわれわれに身近な河川水等では、 多くの場合ATはマグネシウムとカルシウムの濃度の合量のおよそ2倍に相当する値をとる。

*1 日本産業規格ではJIS K 0400-15-10「水質 — アルカリ度の測定 — 第1部:全及び混合アルカリ度の測定」に規定されている。JIS K0102「工場排水試験方法」では酸消費量と呼ぶ。

*2 指示薬に使われたメチルオレンジ(あるいはメチルレッド)の名前を取って「Mアルカリ度」とも呼ばれる。JIS K0102では「酸消費量(pH 4.8)」に相当する。なおJIS K 0400-15-10ではpH 4.5になるまでの酸量をとるのに対しJIS K0102ではpH 4.8をとる結果、両者には微妙な差異がある。

*3 指示薬に使われたフェノールフタレインの名前を取って「Pアルカリ度」とも呼ばれる。JIS K0102では「酸消費量(pH 8.3)」に相当する。JIS K 0400-15-10、JIS K0102ともにpH 8.3になるまでの酸量を採用しているので、この点では両者に差異はない。

<試薬>

  1. 0.02 mol/L塩酸
  2. ブロモクレゾールグリーン-メチルレッド混合指示薬:
    用意してあるものを用いる。ブロモクレゾールグリーン0.20 gとメチルレッド0.015 gをエタノール100 mLに溶かしたもの*1。褐色瓶に保存する。

*1 JIS K 0400-15-10による。JIS K0102では終点をpH 4.8とする関係で、ブロモクレゾールグリーンとメチルレッドの混合比は5:1になっている。

<操作>

  • 「4-1 乳酸の分析」で調製した0.2 mol/L塩酸をホールピペットで10 mL、100 mLのメスフラスコにとり、 水を加えて100 mLにする(0.02 mol/L塩酸)。
  • メスシリンダーを用いて試料水100 mL(濁りがある場合はろ過して使用する)をビーカーに取り(注1)、 ブロモクレゾールグリーン-メチルレッド混合指示薬を数滴加える。
  • 0.02 mol/L塩酸で滴定する。緑青色が灰色になったらところが終点である。

    (注1) 密度を1.00 g mL-1として天びんで秤量してもよい。精度は ±1 mL程度で十分である。

    <検討>

    1. 全アルカリ度を求めよ。採取した試料水をV mL、滴定量をv mLとするとmmol/L表示での全アルカリ度ATは、 (4.1)式で与えられるcHClを用いて次式で与えられる*1
      AT = v × (1000/V) × (cHCl/10)   (4.6)
    2. キレート滴定で求めた硬度と全アルカリ度を比較せよ。

    *1 炭酸水素塩の形で溶存しているカルシウム・マグネシウムは、 水を煮沸することによってかなりの程度、炭酸塩の沈殿として除くことができる。 これを一時硬度(炭酸塩硬度とも)と呼ぶ。全アルカリ度はこの一時硬度に相当すると考えられ、 4-3-1の硬度と同じく炭酸カルシウム換算で表示されることもある。この場合1 mmol/LのATは、硬度50に相当する。

    3-3-3 化学的酸素要求量(COD)

    <概要>

    化学的酸素要求量(COD = Chemical Oxygen Demand)は、試料水を酸化したとき消費される酸化剤の量を、 それに対応する酸素の量に換算したもので、水質汚濁物質の量の指標とされる*1。 通常用いられているのは、過マンガン酸酸化によるものと、重クロム酸酸化による手法である。 CODは溶存する汚濁物質量に対し操作的に定義された指標であり、加熱温度・反応時間等、酸化条件に強く依存する。 測定対象、所轄機関等によって詳細な条件は異なり、比較対照するときには注意が必要である (たとえば過マンガン酸酸化を酸性で行わずアルカリ性で行う手法もある)。 なお条件によっては塩化物も被酸化物としてふるまうが、CODでは塩化物は被酸化物としては取り扱わず、 種々の方法でマスクすることになっている。今回は、JIS K 0101「工場用水試験方法」に準拠した酸性条件での過マンガン酸による酸化法を行う (CODMnとされるもの。ここでは実験スケールを変更するとともに、 対象とする試料水中の塩化物が少ないことを見越して、加える硝酸銀の量を減らしてある)。 過マンガン酸は有機物等がなくとも若干分解するので、イオン交換水を用いた空試験の結果との差で、試料水のCODを評価する。

    *1 同様の汚濁の指標としてBOD(Biochemical Oxygen Demand。生物化学的酸素要求量)がある。 BODは密閉容器中で試料水を20°Cで5日保った後、水中の微生物によって消費された溶存酸素の量で示される。

    <試薬>

    1. 過マンガン酸カリウム溶液5 mmol/L(用意してあるものをそのまま使用する)
    2. シュウ酸溶液10 mmol/L:シュウ酸二水和物約0.12 gを精確にはかり取り、水に溶かして精確に100 mLにする。
    3. 硫酸6 mol/L(用意してあるものをそのまま使用する)
    4. 硝酸銀溶液1 mol/L(用意してあるものをそのまま使用する)

    <操作>

    【過マンガン溶液の標定】
    1. ホールピペットを用い、10 mmol/Lシュウ酸溶液10 mLを精確にコニカルビーカーに取り、水30 mLと6 mol/L硫酸 4 mLを加える。
    2. (1)の溶液を過マンガン酸カリウム溶液で滴定する。過マンガン酸の赤色が消失しなくなったところが終点である (特に滴定初期は反応速度が遅いので、50~60 oC程度に加温しておくのが望ましい)。
    【過マンガン酸酸化】
    1. 水浴に水を入れ沸騰させる。人数分のコニカルビーカーを入れて、水があふれない程度に水の量を調節しておく。
    2. 試料水(空試験の時はイオン交換水)50 mLをコニカルビーカーに取り6 mol/L硫酸5 mLを加える。
    3. 1 mol/L硝酸銀溶液を0.5 mL加えて振り混ぜる。
    4. ビュレットから(5)の溶液に5 mmol/L過マンガン酸カリウム溶液約5.0 mLを0.01 mLまで正確に測って加えて振り混ぜ、直ちに沸騰水浴中に入れる。
    【過マンガン酸消費量の逆滴定】
    1. 30分経過後、沸騰水浴から出し、10 mmol/Lシュウ酸溶液をホールピペットで精確に10 mL取って加えよく振り混ぜる。
    2. 温かいまま(7)の溶液を5 mmol/L過マンガン酸カリウム溶液で滴定する。過マンガン酸の赤色が消失しなくなったところが終点である。
    3. (8)の滴定に要した過マンガン酸カリウム溶液の量と(2)の標定の際に要した量の差から過マンガン酸の消費量を求める。 空試験と試料水を用いた場合についての過マンガン酸消費量の差から試料水のCODを算出する。 酸素8 mg/Lが、過マンガン酸カリウム31.6 mg/L(= 1.00 meq/L = 0.20 mmol/L)に相当することに注意。

    <廃棄物処理>



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