身近な水道水、河川や池などの水の硬度、アルカリ度(酸消費量)および化学的酸素要求量(COD水質汚濁物質の指標)の測定を行う。 水道水や河川等の硬度は降雨や季節によって大きく変動し、精密な濃度の決定はあまり意味がない。 ここでは1/100程度までの精度での分析を行う。
水道水、河川や池などの水に含まれるカルシウムとマグネシウムの合量を、炭酸カルシウムCaCO3の量に換算した濃度をmg/L単位で表して水の硬度(hardness)と呼ぶ*1 。 またカルシウム、マグネシウムの濃度をmg/L単位で表してカルシウム硬度、マグネシウム硬度と呼ぶことがある。 実験4-2-1と同様にして、種々の試料水に含まれるカルシウムとマグネシウムとを定量する。
*1 水の硬度は実生活(飲料・洗濯用水等)と密接に結びつく指標で、 それぞれの国の歴史・地理的な事情等を反映して、採用される硬度もちがってくる。 これはいわゆるアメリカ硬度で、炭酸カルシウムの式量がおよそ100なので、 カルシウムとマグネシウムの合量1 mmol/Lが硬度100に相当する。 酸化カルシウムCaOに換算する流儀もあり(ドイツ硬度)この場合mg/100 cm3を単位にとるので、 1 mmol/Lは硬度5.6に相当する。
(注1) 密度を1.00 g mL-1として天びんで秤量してもよい。精度は ±0.5 mL程度で十分である。
アルカリ度*1 は水中に溶存する炭酸水素イオンなど、塩基性成分の濃度の指標で、 試験水をあるpHに中和するのに必要な酸量から算出される。 通常は試料 1 Lの中和に必要な酸量(水素イオン量)のmmol数、あるいは酸量に相当する炭酸カルシウムの質量の mg数で表示する。 多くの場合、pH 4.5~5にするのに必要な全アルカリ度ATが重要で*2 、 今回の実習でもこの全アルカリ度を決定する。 塩基性の強い水(pH > 8.3)では混合アルカリ度 AP も重要になるが今回は扱わない*3 。
もし水中に塩基として炭酸塩成分しかなければ、おおむね次の関係が成り立つ:
AT ≈ 2[CO32-] + [HCO3-] + [OH-] (4.4) AP ≈ [CO32-] + [OH-] (4.5)
pH 8.3以下の水については定義からAp = 0であり、 またATは炭酸水素イオン濃度 [HCO3-] として扱うことができる。 したがってわれわれに身近な河川水等では、 多くの場合ATはマグネシウムとカルシウムの濃度の合量のおよそ2倍に相当する値をとる。
*2 指示薬に使われたメチルオレンジ(あるいはメチルレッド)の名前を取って「Mアルカリ度」とも呼ばれる。JIS K0102では「酸消費量(pH 4.8)」に相当する。なおJIS K 0400-15-10ではpH 4.5になるまでの酸量をとるのに対しJIS K0102ではpH 4.8をとる結果、両者には微妙な差異がある。
*3 指示薬に使われたフェノールフタレインの名前を取って「Pアルカリ度」とも呼ばれる。JIS K0102では「酸消費量(pH 8.3)」に相当する。JIS K 0400-15-10、JIS K0102ともにpH 8.3になるまでの酸量を採用しているので、この点では両者に差異はない。
*1 JIS K 0400-15-10による。JIS K0102では終点をpH 4.8とする関係で、ブロモクレゾールグリーンとメチルレッドの混合比は5:1になっている。
(注1) 密度を1.00 g mL-1として天びんで秤量してもよい。精度は ±1 mL程度で十分である。
*1 炭酸水素塩の形で溶存しているカルシウム・マグネシウムは、 水を煮沸することによってかなりの程度、炭酸塩の沈殿として除くことができる。 これを一時硬度(炭酸塩硬度とも)と呼ぶ。全アルカリ度はこの一時硬度に相当すると考えられ、 4-3-1の硬度と同じく炭酸カルシウム換算で表示されることもある。この場合1 mmol/LのATは、硬度50に相当する。
化学的酸素要求量(COD = Chemical Oxygen Demand)は、試料水を酸化したとき消費される酸化剤の量を、 それに対応する酸素の量に換算したもので、水質汚濁物質の量の指標とされる*1。 通常用いられているのは、過マンガン酸酸化によるものと、重クロム酸酸化による手法である。 CODは溶存する汚濁物質量に対し操作的に定義された指標であり、加熱温度・反応時間等、酸化条件に強く依存する。 測定対象、所轄機関等によって詳細な条件は異なり、比較対照するときには注意が必要である (たとえば過マンガン酸酸化を酸性で行わずアルカリ性で行う手法もある)。 なお条件によっては塩化物も被酸化物としてふるまうが、CODでは塩化物は被酸化物としては取り扱わず、 種々の方法でマスクすることになっている。今回は、JIS K 0101「工場用水試験方法」に準拠した酸性条件での過マンガン酸による酸化法を行う (CODMnとされるもの。ここでは実験スケールを変更するとともに、 対象とする試料水中の塩化物が少ないことを見越して、加える硝酸銀の量を減らしてある)。 過マンガン酸は有機物等がなくとも若干分解するので、イオン交換水を用いた空試験の結果との差で、試料水のCODを評価する。
*1 同様の汚濁の指標としてBOD(Biochemical Oxygen Demand。生物化学的酸素要求量)がある。 BODは密閉容器中で試料水を20°Cで5日保った後、水中の微生物によって消費された溶存酸素の量で示される。