last revised 2021.3 / 2020.5
吉村洋介

容量分析の初歩

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ちょっと本格的な「化学実験」として、 最初に容量分析の実験を用意しています。 新型コロナ COVID-19の問題がなければ、20年度には次のような構成になる予定でした。

  1. 乳酸の分析 ―― 中和滴定
  2. 温泉水の分析 ―― キレート滴定と沈殿滴定
  3. 環境水の分析

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それが日程の大幅な短縮という事態を受け、急遽、 温泉水・環境水の課題を取り下げ、 沈殿滴定・コロイド化学的な要素も多分に含む形で、 ミルクを題材にした課題を立ち上げることにしています:


今では想像できないかもしれませんが、 その昔(1989年まで)、化学の3回生の学生実験は重量分析から始まっていました。 もっぱら採用されていたのは銅の重量分析。 硫酸銅に水酸化ナトリウム溶液を加え、 加熱脱水して酸化銅にして、 るつぼで焼いて重量分析にかけるのです。 重量分析は標準物質など必要とせず、 精確さという点では容量分析に立ち勝っていると言っていいでしょう。 また歴史的に見ても、 ラボアジェの起こした「化学革命」は天秤とともにあったといってもよく、 化学実験の冒頭を飾るにふさわしい課題と言えるでしょう。

しかし重量分析の課題は、 かなりな忍耐と集中力の要求される課題です。 バーナーでの灼熱操作が十分であっても、 デシケーター中での放冷操作が一定でないと、 なかなか再現性を得るのが難しい。 質量が容易には保存しないこと(?)を実感するにはよいでしょうが、 教養の化学実験もとっていない学生もいる中で、 かなりなハードルです。 さらにこの初歩的(?)な銅の重量分析の後、 今度は黄銅の組成の重量分析による系統分析が待っているのです。

そこで1990年の実験改定の折、 百瀬さんとぼくが分析実験改定の担当になり、 読み取り誤差などの実験を加え、 まずは初歩的な容量分析の実験から始めることにしました。 そして合金(黄銅)の分析は全面的に容量分析に転換。 重量分析は、用意された試料(硫酸銅・鉄ミョウバン)を、 重量分析と容量分析で分析するという形で、 掬い取るという方針を取りました。

この初歩的な容量分析の実験として、何を採用するかはかなり悩みました。 当初は3回生だけに、ある程度の難度のものというので、 炭酸根の示差滴定(炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウム混合物の混合比)と リン酸の定量(リンモリブデン酸アンモニウムとして分離、アルカリに溶解して希硝酸で逆滴定) というのを用意しました。 しかしこれは余りにハードだったようで、 特にリン酸の定量は散々のできでした。 そんなこんなで、課題の簡易化を図り、 教養の化学実験を履修していない学生向けに「果汁の酸量の決定」(後に「食酢の酸量の決定」にシフト)、 履修した学生には炭酸根の示差滴定、 という具合に切り分け、 さらに合金の分析の後に実施していたキレート滴定(海水中のマグネシウム・カルシウムの定量)を、 「容量分析の初歩」に入れ込む形で、だいたい現在の「容量分析の初歩」のプロトタイプができ上ったわけです。


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