今日の統計力学の基本的な形ができたのは、1902年の Gibbs の Elementary principles in statistical mechanics 出版のころであると言われています。 けれどもそれ以前に、今日では統計力学の成果として整理される、 分子論に基礎を置く物質の熱力学的な理解に関する、 いろいろな成果が現れていました。 気液の臨界現象を解き明かしたファンデルワールスの状態方程式(1873)はその顕著な例です。 今日当たり前のように使われる、状態和(分配関数)に基づく統計熱力学の体系が存在しなかった頃、 人びとはいかにして、分子間の相互作用と観測される温度・圧力・体積の関係を導いたのでしょう? そこにあったものがビリアル定理でした。
ビリアル定理は1870年にクラウジウスによって提唱され、 すでに130年余りに及ぶ長い歴史を持っています。 しかし今日の統計力学・量子力学の教科書などには便宜的に顔を出す程度で、 その意味合いは必ずしもよく理解されていないようです。 むしろ天体力学などの分野で、ビリアル定理は活躍の舞台を見出しているようにすら見えます。 ここではビリアル定理のおおよその内容を概観した後、 特にクラウジウスの古典的なビリアル定理に沿って、 液体の化学の立場から、ビリアル定理について考えてみたいと思います。