ビリアル定理は相互作用エネルギーではなく、 分子間力に立脚した視点を与えてくれる有効な関係式を与えてくれます。 特に外部ビリアルと内部ビリアルに分けるというアイデアは、 しばしば等閑視されがちな器壁との相互作用の重要性を明瞭に示してくれるものです。 何でもないことのようですが、 ぼくたちの日常の実感としては、 圧力は物体の表面で測られる量であって、 自由エネルギーの体積微分ではありません。 この意味でビリアル定理は、 ぼくたちの身の丈で見た分子集団の風景を見せてくれていると言えるかもしれません。
ぼくは状態和の方法が、きわめて強力で有効な方法であることを否定するものではありません。 けれども状態和の方法だけから見える分子集団の姿はあまりにもわびしい。 状態和の方法には、 ビリアル定理から感じ取れる力動的な描像が欠けているように感じるのです。 そしてそれを手にするには、 ビリアル定理にはあった、 どこか粗削りな、 ぼくたちの想像力の働きを借りなければ届かない種類のものが必要な気がしています。
本稿の至らぬ点について、大気社の山本さんからいろいろコメントいただきました。 記して謝意を表します。