1次元流体についての低次元な話 2
2006.9.12.

2.1次元流体モデル

ここで考えようとする1次元流体というのは、 図のように長さ L の1本の線上に並んだ分子から構成されている流体です。 全部で N 個、単位長さあたり ρ = N/L 個の分子があり、 両端からは力 P を受けています。 以下しばらくは相互作用として剛体的な相互作用を考え、 1本の剛体棒の長さを a とします。

1dmodel.png

現実系でこれになぞらえられるようなものとしては、 尿素の包接化合物、 カーボンナノチューブ中に包接された物質などを挙げることもできるでしょう。 こうした現実系では、1次元流体に対する外部からの相互作用の寄与が重要になるわけですが・・・。

さてこの1次元流体モデルの特徴として、 後でも詳しく触れますが、ある分子に周りから及ぼされる力(応力)が、 系の圧力 P に等しくなるということが挙げられます。 このことは一見当たり前のように思われるかもしれません。 しかし、一般に3次元の液体では成立しません。 たとえ剛体と見なせる分子であっても、表面の形状に依存して、分子の受ける応力は変化します。 サイズを変えていった時、表面の曲率が変化し、それはただちに応力の変化に反映されるるのです。 このことが3次元の流体の統計理論を複雑で厄介なものにしているといっても過言ではありません。 「流体中で静水圧は場所によらず一定」というパスカルの原理は、 流体を連続体と見た時には成立するのですが、 分子論的に見た時には成り立たないのです。 これとちがって1次元の流体では、パスカルの原理が分子論的なレベルでも成り立つ。 このことが1次元の流体での厳密な取扱いを可能とします。

なお閉じた1次元の流体では緩和が起きません。 分子の位置の交換ができないので、拡散が起きません。 質量の同じ剛体棒同士の衝突では、単に運動量の交換が起きるだけですから、 かりにマクスウェルの速度則から大きく外れた状態から出発しても、 速度分布は変化しません。 ここでは外部に熱浴を想定し、熱平衡が実現されているものとして取り扱います。


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