2020.3.
吉村洋介
積分幾何学のはなし

おしまいに

ぼくが積分幾何学というものに初めて触れたのは、 学生時代に岩波全書で出た、木原太郎「分子間力」(岩波、1976年)を読んだ時でした。 剛体分子の第2ビリアル係数の計算を、 「凸体の3基本量」(体積・表面積・"measure")を用いて行うというアイデアに感心しました。 その後、たまたま岩波の数学辞典を眺めていて、 「分子間力」の中で「石原-Hadwigerの公式」として紹介されていたものが、 実はBlaschke の「積分幾何学の主公式」であることを知りました。 「積分幾何学」なるものがあることを知り、 当時もう絶版だった栗田稔「積分幾何学」(共立、現代数学講座。1956年。何年か前に復刊されました) を図書館で借りて読んでみて、 何のことやらよくわからないものの、 姿かたちを持つ分子を扱う以上、 それまで安直に眺めていた統計力学のエルゴード性の問題などを、 きちんと考えないといけないことを教えられました。 ここで取り上げた2直線のなす角度の問題などは、そのころ考えたことです。

現在の化学のカリキュラムでは、 積分幾何学・幾何的確率論に関わるような話題はまず取り上げられません。 またたとえ少々関心があっても、 最近の数学で取り上げられる積分幾何学の本は、 われわれ化学者にはあまりに敷居が高すぎます。 なにせ「入門」を謳った本が出たので買ってみたのですが、 何と1枚の図・絵もないのです。

というわけで、専門家から見るときわめて素人くさく穴だらけでしょうが、 ここに紹介したような話を用意した次第です。 とある化学者が見聞きした積分幾何学の、化学の学生向けの紹介ということで、 お手柔らかにお願いします。 無論、とんでもない間違い、勘違い等あれば、 ご教授、ご指摘よろしくお願いします。

なお流体の統計力学との関り、 粉体で問題になるフェレー径などについて触れていませんが、 そのあたりはまた機会があれば触れたいと思っています。

参考書

  1. 栗田稔「積分幾何学」、共立 1956.
  2. M. G. Kendall and P. A. P. Moran, "Geometrical probability," Charles Griffin, London 1963.
  3. L. A. Santaló, "Introduction to integral geometry," Hermann 1953.

2022.3.

補記

生まれて初めて入院する羽目になり、 徒然に積分幾何学の話を調べていたら、 われわれにも理解できそうな和書が出版されていました

腰塚武志 「応用のための積分幾何学 -図形の測度:道路網・市街地・施設配置」、2019 近代科学社 ISBN 978-4764905931

著者は都市計画などの分野で「都市解析」という分野の方とのことです。 電子版を買って眺めていたのですが、図も丁寧に用意され、話が具体的で、われわれ非専門家にも理解できそうです。 その内、ゆっくり勉強させていただきたいと思っています。


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