2021.10
吉村洋介
入門化学実験: 「銅塩の合成と性質」の課題のこと

以前の「硫酸銅の合成と性質」から

1.亜塩素酸ナトリウムを使った硫酸銅の合成

最初のころは、たまたま亜塩素酸ナトリウム NaClO2 の在庫があったのを幸い、 銅の溶解には亜塩素酸ナトリウムを使った手法を採用していました。 局所排気装置があるとはいえ、 塩素や酸化塩素 ClO2 の発生が心配なので、 溶解は試験管中で行うようにし、 量比にはかなり神経を使いました。

<試薬> <操作>
  1. 試験管に金属銅線約2 gをはかり取って水4 mLを入れ、攪拌しながら硫酸 1.0 mLをゆっくり加える。
  2. (1)を氷冷し、振り混ぜながら、亜塩素酸ナトリウム0.5 gを5 mL程度の水に溶かした溶液を少しずつ滴下して銅を溶かす (局所排気装置をセット。急速に加えると塩素・酸化塩素が大量に発生することがあるので注意!)。
  3. 反応が収まったら撹拌しながら60 °C程度の湯に浸けて加温し(急に加熱すると塩素が大量に発生することがあるので注意)、しばらく放置して反応を完結させる。
  4. 溶液をろ過し、ビーカー中でろ液を加熱濃縮する。
  5. 溶液を放冷し結晶が出始めたら、氷冷して結晶をさらに析出させる。
  6. 吸引ろ過して結晶を採取する。結晶は小量の冷水で洗った後、ろ紙上で乾燥する

量論をざっくり見ると、銅が 2 g(30 mmol)に対し、濃硫酸 1.0 mL(18 mmol)、 ここに亜塩素酸ナトリウム0.5 g(5 mmol。含有量を多めに見積もって90 %とする(試薬瓶には含有量 60 %以上を謳っています))を加えて溶かします。 ちょっと心配し過ぎかもしれませんが、銅を過剰に入れ、塩素・酸化塩素の発生を抑える設定にしています。 反応が順調に進めば、硫酸銅五水和物 CuSO4·5H2O は最大 2.5 g(10 mmol)ぐらい取れる勘定です。

2Cu + NaClO2 + 2H2SO4 → 2CuSO4 + 2 NaCl + 2H2O

この亜塩素酸ナトリウムを使った合成では、 途中にクロロ錯体ができたりして、青~緑の色の変化が楽しめます。 なお長時間やると亜塩素酸ナトリウムが完全に消費され、 次に行う Cu(I) が生成する反応が起きるようになりますが、 そこまでやる人はまずいないですね。

図1a 硫酸を入れています。 硫酸にちょっと色が付いているのは、何か紙切れでも入ったか? 図1b あまり混ぜずに亜塩素酸ナトリウム溶液を滴下したケース。 図1c 最初の内は緑色のことが多い。 図1d 銅が溶けるに従い青くなってくる。

こうやって銅を溶解させた溶液をろ過した後、濃縮、冷却し、 結晶を析出させます。 うまくいけば 2 g 近く取れるケースもありますが、 たいてい収量は 1 g に届きません。 後の実験には 0.5 g もあれば十分なので、 これで問題はないのですが、 亜塩素酸ナトリウムを加えて金属銅を溶解させる段階で、 どれだけ辛抱強く溶解が進むのを待ったかが、収量に現れるようです。

図2a ろ過します。 図2b 濃縮します。 図2c 冷却して結晶を析出させます。 図2d 吸引ろ過で結晶分取。

2.塩化銅(I) の合成と銅アセチリド

1 価の銅 Cu(I) は水溶液中では不安定で、不均化反応を起こして、 金属銅 Cu(0) と 2 価の銅 Cu(II) になります。

2Cu+ ⇌ Cu + Cu2+

けれども塩化物イオンが存在すると、 Cu(I) のクロロ錯体が生成して平衡は Cu(I) の方にずれ、 不溶性の塩化銅(I) CuCl の結晶をえることができます。 以前の実験課題では、金属銅と塩化物イオンの存在下、硫酸銅 CuSO4 の溶液を加熱して、 実際にこの反応を体験してもらうようにしていました。 そしてこの塩化銅(I) のアンモニア溶液にアセチレンを通じると銅アセチリドができ、 ”線香花火” をやってシメという流れです。

<試薬> <操作>
  1. 合成した硫酸銅五水和物 CuSO4·5H2O を試験管に入れて水に溶かし、 ここに硫酸銅と同量程度の銅線と食塩を入れ、硫酸を数滴加えてしばらく煮沸した後、 冷却して塩化銅(I)が析出してくることを確認する。
  2. 吸引ろ過して塩化銅(I)を漉しとり、少量の 0.1 mol/L 亜硫酸水素ナトリウム溶液で洗浄した後、塩化銅(I)を分取する。
  3. 塩化銅(I)を試験管に取りアンモニア水を加えて溶解させ、 気体発生装置からカルシウムカーバイドと水の反応で発生させたアセチレンを通じる。
  4. 生成した銅アセチリドを分取する(湿ったまま!乾燥させると爆発危険!)。
  5. 加熱したセラミック金網に銅アセチリドを落として変化を調べる。

銅の2価の塩から塩化銅(I) CuCl を作るには、 亜硫酸やフォスフィン酸を使うなどいろんな手法があります (ちなみに塩化物イオンがない状態で、亜硫酸水素ナトリウムと硫酸銅を反応させると、 シュブルール Chevreul 塩と呼ばれる赤褐色の複塩 Cu2SO3·CuSO3·2H2O ができます。 昔、てっきり酸化銅(I) Cu2O だと思ってドジったことがあります)。 ここでは余計な試薬は使わず、 塩化物イオンの存在下、金属銅 Cu(0) と2価の銅 Cu(II) の反応で、 塩化銅(I) CuCl を得ます。 Cu(II) のクロロ錯体を作って青緑色になっている溶液が、Cu(I) のクロロ錯体の無色の溶液となり、 冷却すると CuCl が析出してくるわけですが、 途中にくすんだ暗緑色のような状態がでたりして、 ちょっと化学の奥深さを感じさせてくれます (この暗い色には、銅の多核錯体が絡んでるみたいです。 こうした変化に、かつてのぼくは感動したものでした。 最近の学生さんはそうでもないみたいで、 世代のギャップも感じさせられます・・・)。

なお生成した塩化銅(I) CuCl を吸引ろ過で分取する際、 洗浄に亜硫酸水素ナトリウム溶液(この溶液は後の時計反応の課題でも使う)を使わず、 イオン交換水でやると、みるみる空気酸化を受けて緑色がかってくるので要注意。

図3a 硫酸銅に塩と銅線を入れ、硫酸を少量加えます。 図3b ヒートガンで加熱していると、 暗い感じの色になり、沈殿もできてくる。 図3c 銅線を除き、冷やすとこんな感じ。 塩化銅(I) CuCl の沈殿ができています。 図3d えられた塩化銅(I)。

アセチレンの発生には、 魚釣り用に売っていたアセチレンランプを使いました。 ぼくが小さかったころ、 墓会(はかえ)の夜店にアセチレンランプが灯っていたのをぼんやり覚えています。 今ではもう、夜店でアセチレンランプなど使っているところはないでしょうね。 学生さんに聞いてみても、誰もアセチレンランプというのは知らないみたいです。 それはともかく、 このアセチレンランプの火口を外して、6 mm ぐらいのポリエチ管の先を焙って少し絞ったものを差し込み、 アセチレンを取り出します。

塩化銅(I) のアンモニア溶液は、 最初は薄い青色ですが、 空気酸化されてどんどん濃青色になっていきます。 でも酸化される量はしれているので、 あんまり気にする必要はありません。 アセチレンを吹き込むと、 すぐに茶色の銅アセチリドができてきます。

できた銅アセチリドは、吸引ろ過などせず、 溶液ごと、ろ紙かキッチンペーパーの上に打ち空け、 泥の状態で回収してもらいます。 この泥の水気を紙で吸い取って、 湿った状態で加熱したセラミック金網の上に、 パラパラ撒いてもらえば、 銅アセチリドの爆発性というのを確認してもらえるというわけです。

図4a 「気体発生装置」に使うのは、 魚釣りなどで使われる(た)アセチレン灯。 最初、空気が混じった状態だと写真の青い灯。 中の空気が十分アセチレンに置き換わると、 明るい電灯色になる。 図4b 塩化銅(I) をアンモニアに溶かす。 空気酸化されすぐに Cu(II) のアンミン錯体の濃紺色になる。 図4c アセチレンを吹き込むと、 すぐに茶色の銅アセチリドが生成する。 図4d 銅アセチリドを加熱したセラミック金網の上に散らすと、 パチパチ爆ぜる。

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