硫酸銅五水和物 CuSO4·5H2O を金属銅から合成し、 物質の磁気的な性質に触れる。 合成に先立ってろ過操作、晶析の基本を確認する。
ろ過には対象・目的に応じてさまざまな手法がある。比較的大きな粒子(~0.1 mm)から溶液を分け取る操作などでは、 スポイトで溶液を吸い取ったり布等で漉しとることで十分目的を達することができる(“漉過” straining)。 さらに小さな粒子(~1 µm)についてはろ紙を用いることになる(“濾過” filtration)。 ろ紙を用いたろ過では、濾しとられた沈殿物自身がフィルターとして働く機構(ケークろ過)がしばしば大きな役割を果たし、 ろ過を繰り返すことでより清澄なろ液を得ることができることも多い。 また吸引ろ過は、粒子に付着した液切りが容易なので、結晶を分取する操作で頻繁に用いられる。
再結晶操作等で結晶を析出・分取する際には、結晶があまりに微細であると表面に付いた不純物を除くのが困難で、 結晶の成長に十分時間をかけるのが望ましい。 ここでは結晶の成長速度が極端に異なる例として、中和による水酸化アルミニウムの生成について、 アンモニア水添加による方法と尿素の分解を利用した均一沈殿法とを取り上げた。 今回の均一沈殿法では、水溶液中での尿素のアンモニアと二酸化炭素への分解(70 °C 程度以上で目に見えて進むようになる)によってpHがゆっくり上がることを利用している。
銅は水素よりイオン化傾向が低いので、ここでは過酸化水素を用いて銅を酸化している。 過酸化水素は一部、水と酸素に分解されるので、計算量より多めに入れる必要がある。
銅の化合物には+1価と+2価のものがあるが、+1価の銅は容易に空気酸化され、 また溶液中では 2Cu+ → Cu + Cu2+ の不均一化反応が起きる。 そのため Cu(I) の化合物は、もっぱら CuCl のような難溶性塩か、[CuCl2]- や[Cu(NH3)2]+ といった錯体の形で取り扱われる。 ここでは塩化物イオンの共存下、Cu(II)をホスフィン酸 H3PO2 で還元することでCuClを得ている。 なお塩化物イオンがないと水素化銅 CuH が生成する。
アルミ缶は磁石につかないが、スチール缶は磁石につく。 日常的にはこうして大まかに物質の磁気的な性質を分類しているが、さらに感度の高い測定をすることで、磁石につかない物質(非磁性物質)にも、 磁石を近づけると反発するもの(反磁性 diamagnetism)と、弱いながらも磁石に引き寄せられるもの(常磁性 paramagnetism)とがあることがわかる。 この磁石との間に働く力は、磁場の作用で物質中に磁石が誘起されるためだと考えることができる。 この誘起される磁石の大きさが磁場 H に比例するとすると、働く力 F はおおむね
F ∝ χ H2
のように表される。ここで χ は磁化率と呼ばれ、 磁場によって物質中に磁石が誘起される度合いを示す。 磁気天秤は磁場と物質の間の力をはかることで磁化率を測定する装置である。
分子に不対電子があると、分子は小さい磁石のようにふるまい一般に常磁性を示す。 銅の塩の場合、Cu2+では最外殻の 3d 軌道に 9個の電子があって不対電子が存在し常磁性を示すが、 Cu+では不対電子が存在しないので反磁性を示すようになる。 分子が独立に挙動しておれば、このような描像でもよいのだが、金属銅や硫化銅のように電気を通すような物質では事態は単純ではなくなる。
無機イオンの定性分析は教養レベルで経験するわけですが、 そうした金属元素に関わる「ものづくり」と種々の物性に関わる実験は手薄です。 ここでは比較的単純な物質として、中学・高校でもおなじみの硫酸銅(II)を取り上げることにしました。 他にも別に紹介するコバルト錯体の合成、 酸化マンガンから過マンガン酸カリを作る、 クロムミョウバンから重クロム酸カリを作る、 などいろいろ候補はありました。 けれど結局のところ、ぼくが小学校のころ、ボルドー液に使う硫酸銅(胆磐)が家にあって、 結晶を作ったり、釘を入れたりして遊んでいた遠い記憶が、採用の決め手になりました。 また実験操作に関わって、 しばしば等閑に付されがちなろ過操作についても、 ちょっと深く掘り下げてみることにしています。
硫酸銅の性質というわけで、 ここでは磁性を取り上げます。 すでに液体酸素の性質を取り上げた中で 常磁性に触れてもらっていますが、 もう少し進んで、 簡易な磁気天秤を利用して反磁性にも触れてもらえればという感じです。 その先の、 硫酸銅、塩化銅(I) については、 見かけの原子の酸化数から単純に議論できるものの、 硫化銅については単純でないといった話題については、 化学の奥深さを感じてもらえれば良いでしょう。