コロイド溶液は、比較的大きな粒子(10-9~10-7 m)の溶液である。 ここでは、コロイド溶液に関して、水酸化鉄(III)およびプルシャンブルー(タンブルブルー)のコロイド溶液を中心に調べる。
ここで主に取り上げるのは、水を分散媒とするコロイドの中でも、電解質を加えることで容易に不安定化する疎水コロイドと呼ばれるものである。 コロイドの調製には種々の方法があるが、ここでは加水分解・難溶性塩の生成を利用した方法を取っている (余裕があれば塩化金(III)溶液も用意してあるので、還元反応による金コロイドの調製にも挑戦してみよ)。 疎水コロイドでは、コロイド粒子は主に電気的な斥力によって凝集(コロイド粒子が凝縮分離する現象を凝析 flocculation と呼ぶ)が妨げられており、 コロイド粒子の持つ電荷によって正コロイド(水酸化鉄など)、負コロイド(プルシャンブルーなど)に分けられる 。
条件によってコロイド粒子の電荷の正負が変化することも多い。 タンパク質ではpHによって電荷が変化し、正負の電荷が釣り合うpHを等電点と呼ぶ。 ペーパークロマトグラフィーを行うと正コロイドは小さな Rf 値を示すので容易に判定できる。
疎水コロイドは、コロイド粒子の電荷と反対符号のイオンの電荷が大きいほど凝析を起こしやすく(シュルツェ-ハーディ Schulze-Hardy 則。 典型的には1価であれば数十mM、2価では数mMの濃度で凝析を起こす)、 同符号のイオンの電荷の大きさはあまり影響しない。
親水コロイド(典型的にはタンパク質溶液)は主に水和することでコロイド粒子が安定化している。 疎水コロイドにゼラチンなどを加えると、疎水コロイド粒子表面にゼラチンが吸着され、 親水コロイドとしてふるまうようになり安定化する(保護コロイド)。 なお親水コロイドについても電解質濃度が大きくなると凝析が起こるようになる。 これは塩析効果によるものと考えられ、親水コロイドの凝析を起こしやすい順にイオンを並べたものをホーフマイスター Hofmeister 系列と呼ぶ (例えば硫酸イオン > 塩化物イオン > 硝酸イオン)。
コロイド粒子同士がさまざまな相互作用で3次元的なネットワークを形成し、 液体を多量に保持しながらも固体のようにふるまうものをゲル gel と呼ぶ。 ゲルの中には加熱したり水を加えたりすることで可逆的に流動状態(ゾル sol)になるものも多い。 このようなゲル-ゾルの変化の速度は、今回のシリカゲル生成の実験でも見られるようにpHなどの条件によって大きな影響を受ける 。 また一般に、ゾル → ゲル変化の起きる温度はゲル → ゾル変化の起きる温度とは異なる (ゼラチンの2%溶液を試験管に取り、温度計を差し込んで冷水や温水に浸して変化の様子を観察してみよ)。
水ガラス溶液にコバルトや銅など種々の金属塩の結晶を入れると、ケミカルガーデンと呼ばれる現象が現れる。興味のあるものはやってみよ。
タンパク質などの分子性コロイドの場合には、分子形状の変化(タンパク質の変性)も関わって状況はさらに複雑である。 たとえば豆腐ができるには、適切な濃度の塩が必要になる(硫酸マグネシウム 0.3~0.5 g を取り豆乳 50 mL を加えよく混合し電子レンジで加熱し、 硫酸マグネシウムを入れない場合と比較してみよ。塩化カルシウムを加えた場合にはどうか)。
コロイドに関する実験は、 電気化学の文脈の中で位置付けていて、 疎水コロイドの凝析を中心に設計しています。 2012 年度までは課題名も「コロイドの凝析」で、 水酸化鉄コロイドの凝析に絞った課題でした。 そこに透析やゲルなど、さまざまな要素が加わって、 今の形になっています。
水酸化鉄のコロイドが正に帯電していて、 コロイド粒子の電荷間の反発で安定に分散しているという説明は、 分かりやすいのですが、 まじめに考えてみると、 そんなに単純ではありません。 同じイオン性物質でも、硫酸カルシウムは硫酸ナトリウムより、 溶解度が小さいです。 でもコロイドの議論からすると、 カルシウムの電荷がナトリウムの2倍だから、 カルシウムイオン同士反発しあって溶解しやすいのではないですか? あるいは、 ゼラチンが保護コロイドを作るといいますが、 ゼラチンは正に帯電している(原料・製造法によってもちがうが、ゼラチンの等電点は pH 8 ぐらい)ので、 水酸化鉄コロイドとは反発しあうはずではないでしょうか?
ここではそうしたさまざまな疑問・理屈はおいておいて、 まずは現象をきちんと眺めてみてもらいたいところです。 話が長くなるので、この課題の詳細については、 下記サイトを参照ください。