2021.9
吉村洋介

2.SI における物理量の書式のルール

物理量の書式については、 おそらく皆さんは投稿する雑誌の投稿規定を遵守しておられるでしょう。 そして雑誌によって、物理量や数式の書式が異なっていたりするのに戸惑われることがあろうかと思います。 ここではそうした雑誌の投稿規定の大本にある、 国際単位系 SI のルールを紹介します。 ぼくは SI のルールをできるだけ守る立場ですが、 ちょっとあんまりだと思うこともあります。 ここではぼくが「守って欲しいルール」と「ちょっと窮屈なルール」に分けて、 SI のルールを紹介します。

2-1.守って欲しいルール

2-1-1.単位を忘れず、数値と単位の間にはスペースを入れる。

SI の書式のルールで、ぼくが「これだけは」と言って、 レポートを書く際、学生諸君に必ず守ってくれるようにお願いするのは、このルールです。

数値と単位の間にスペースを入れるというのは、 現状、大学初年級ではあまり徹底されておらず、 最初のうちは忘れることが多いです。 どうでもいいことのように思われがちですが、 これは物理量が数値と単位の積で表されるということの宣言、確認なので、 忘れないでほしいところです。

昔に比べると少なくなりましたが、今も日本語で書かれた解説書などでは、 数値と単位の間にスペースが入っていないことがしばしばあります。 これは日本語では一般に分かち書きを行わないことが影響しているのでしょうが、 物理量の記述としては好ましくありません。 日本語では SI には規定のない、全角か半角かの問題、 あるいは SI で想定されていない縦書きの場合もあり(特に法律関係)、 いろいろ取り扱いが厄介です。 それでも科学的な文書では、SI のココロに沿った書式を取って欲しいところです。

「単位を忘れず」というのはあまりにも当たり前で、 そんなにやかましくは言いたくないのですが、 まじめに書式だって記述する際には気を遣うところです。 図表や文中での記述ではたぶん問題ないのですが、 数式の計算の記述では面倒になることがよくあります (TeX で文書を作成しておられる方は経験されるところでしょう)。 でもそうした時でも、単位をチェックすることは、 数式の妥当性を検証する上でも大事なので、 冗長にならない程度、最低限でよいので忘れず丁寧に書いて欲しいところです。

<物理量の表記例>

R = 8.31446 J mol-1 K-1
R = 8.31446 J/(mol K)

誤りの例

R = 8.31446
単位を忘れてはいけません。
R = 8.31446J mol-1 K-1
数値と単位の間にスペースを入れましょう。
R = 8.31446 J mol-1K-1
mol-1 と K-1 の間にスペースを入れましょう。
R = 8.31446 J/ mol/ K
J/(mol K) なのか J/(mol/K) なのか分かりません。
R = 8.31446 (J mol-1 K-1)
数値と単位の間にスペース以外のものが入るといけません。 特にこの場合、( ) が説明・注釈と捉えられると、物理量と数値の区別があいまいになります。

k = 0.81 s-1

誤りの例

k = 0.81 /s
高校の教科書で、負のべき乗を使わない方針を取っている場合に見受けられる表記ですが不可です。 数値と単位の間にスペース以外のものが入ってはいけません。 同様にアボガドロ定数を NA = 6.0 × 1023 /mol としたり、 波数 3000 cm-1 を 3000 /cm としたりするのも不可です。

2-1-2.単位は立体で、物理量はイタリックで

手書きだと面倒で要求しませんが、 ワープロなどで文書を作成する時は、 書体の設定に注意して欲しいところです。

特に単位記号について、SI では書体が厳しく制限されていて、 単位記号は立体(ローマン体)でないといけないことになっています。 たとえば、あるフレーズを強調するためにイタリック体(斜体)にする時でも、 単位記号は立体のままにしておかないといけない決まりです。 こうやって「単位は単位である」ことを明確にしようというわけです。 レポートを見ていると妙に気取って単位記号までイタリック体にする人がいたりしますが、 単位記号は立体でないといけません(「L = 4.34 mm」などは不可)。 この点は必ず守って欲しいところです。

<単位記号の表記例>

正: ここで二酸化炭素の三重点の圧力が 518 kPa で大気圧 101 kPa より高いことに注意する。

誤:ここで二酸化炭素の三重点の圧力が 518 kPa で大気圧 101 kPa より高いことに注意する。

(数値の書体について、SI では特に規定はありませんが ISQ では立体でないといけないことになっています。)

物理量を表す量記号の書体について、 SI 文書では、イタリック体でないといけないとまでは書いていませんが、 イタリック体にしておくのがよいでしょう (後述する国際量体系 ISQ ではイタリック体でないといけないことになっています)。 数値変数も含め、変数一般について、伝統的にイタリックを用いることになっていて、 このあたり、物理量と数値の区別はいささかあいまいです。

<量記号の表記例>

定積モル熱容量
 Cm,V   熱容量 C、体積 V は物理量なのでイタリック体。m は 「molar」の略語なので立体。

2-2.例外規定と注意すべきルール

2-2-1.例外としばしば守られないケース

時間の単位について 1 分を60 秒とするように、昔ながらの伝統に SI が妥協するケースも中にはあります。 数値と単位をスペースで区切ってこなかったものに、 角度の度 °、分 '、秒 '' があり(非 SI 単位で SI 単位と併用することが認められています)、 SI でもスペースを入れずに使用することとしています(スペースを入れない唯一の例外)。

ただし同じ ° 記号を含む、温度の単位であるセルシウス度 °C については、 「°C」で単位記号とみなします。 セルシウス温度(°C)を表記するには、°C の前に1 字分の空白を挿入します。

同じように % 記号について、長い間、数値と% の間にスペースを入れない慣行が行われていました。 % 記号については、そもそも単位記号として考えるかどうかも含め考慮すべき点が多いのですが、 SI では % を 0.01 という数値、無次元量として扱っています。 ですから数値と記号 % を離すために空白を入れることになります(33% は不可。33 % とする)。 けれども今も、このルールが守られていないケースをよく見かけます。

誤りの例

θ = 109 ° 28'
スペースをとって、θ = 109°28' としないといけません。
T = 24.5°C
スペースを入れ、T = 24.5 °C としないといけません。T = 24.5° C も不可です。
x = 30.3%
スペースを入れ、x = 30.3 % としないといけません。

2-2-2.単位記号、名称の省略語は許されない。

よく勘違いがあるのは、 どこかで見た単位記号や略号を使用するケースです。 単位記号の混同が起きないように、 SI では基本、使用する記号が1つになるように定められています。

秒 s をsec、時 h を hr と略するのは許されません。 また cm3 を cc (= cubic centimeter) としてはいけません。 同様に平米(平方メートル m2 の省略語)、立米(リューベ。日本語です。立方メートル m3 の省略語)も不可です。 このあたりちょっと窮屈な気もしますが、 原則に従っておくのがよいでしょう。

使用する記号は1種類というわけですが、リットルは例外で、l (小文字のエル)でも L でもよいことになっています(1979 年から)。 以前は教科書などで筆記体 ℓ が採用され、プリントを作る時など先生泣かせでした。

誤りの例

t = 20.5 sec
sec は second の略語なので不可です。t = 20.5 s としないといけません。
V = 50.3 cc
cc は cubic centimeter の略語なので不可です。V = 50.3 cm3 としないといけません。

ちなみに時間に関わって、非SI 単位として分 min、時 h、日 d は、SI 単位である秒 s と併用することが許容されています。 年 a(annus ラテン語)は、SIでは規定されていませんが、 地質年代や長寿命の放射性同位元素の寿命に用いられ、 しばしばユリウス年(1 a = 365.25 d)が採用されます (中にはグレゴリオ暦で換算するケースなどもあり、精密な用途には使わない方がよい)。 ちなみに h の和語は「時」であって「時間」ではありません。 通常「8 時」というと、時刻(午前 8 時、午後 8 時)だと思いますが、SI の文脈では「8 時間」なわけです。 いろいろ考えてこういう訳語になったんでしょうが、 まずこういう使い方にはお目にかかりません・・・。

2-3.ちょっと窮屈なルール

SI は物理量、数値、単位の混同が起きないように、 厳格なルールを課すのですが、時として結構窮屈な思いをすることがあります。

2-3-1.ある物理量の一つの表現の中で使う単位は一回

何のことかと思われるかもしれませんが、「1 m 70 cm は不可」ということです。 「1.70 m」あるいは「170 cm」としないといけません。 原則に忠実にいくと、「1 m 70 cm」は「1 m × 70 cm」を意味することになってしまいます。 ”空気読めよ” と言いたくなるところですが、 基本、SI は頑固です。

ただし時間と平面角については、歴史と伝統から例外規定があり、 「10 min 20 s」「109°28'」といった表記が許されています。 この柔軟さをもう少し広げて欲しい気がしますが、 たぶん緩め出すと取り留めなくなっていくのでしょうね・・・

2-3-2.単位記号は量に関する情報を提供するために使ってはならない

これは「塩化ナトリウムの飽和濃度は 26.5 (m/m)% (あるいは 26.5 mass%)」というのは不可で、 「塩化ナトリウムの飽和濃度は質量分率 26.5 %」としないといけないということです。 質量分率であれモル(物質量)分率であれ、物理量としての次元は 1 で同じで区別できないのに、 「mass%」「mol%」という単位記号を使うと、単位記号同士の演算で混乱が生じる可能性があります。 一方これが、熱化学カロリー calth (= 4.184 J) と国際蒸気表カロリー calIT (= 4.1868 J) という場合には、添え字の th、IT は、単位記号それ自身の情報なので、「10 calth」といった表記は可です。

原則はこれでいいのでしょうが、特に単位が 1 の物理量に関しては、 「なぜ単位が 1 になったか(次元をなくしたか)」を書き添えたくなります。 そうした場合には「塩化ナトリウムの飽和濃度は質量分率 0.265 kg/kg」といった表記は可能です。 あるいはラジアン rad について m/m といった表記も可能です。

このあたりは結構、微妙な問題のあるところです。 たとえば SI では周期現象について単位 Hz(ヘルツ)を用いることになっていますが、 これを Hz = s-1 だからといって、 1次反応の反応速度定数を 0.3 Hz などと表現してはいけません。 あるいはラジアン rad が長さの比だからといって、 (こんなことをする人はいないでしょうが)親子の身長の比を 0.74 rad などとするのは不可です。 こうした例は、 単位記号に量に関する情報が入っているとも言えるわけですが、 さすがにここは SI も ”空気” を読みます。

2-4.量の四則演算

【物理量】=【数値】×【単位】なので、 数値は【物理量】/【単位】で表現することができます。 図表に適用した例を下に示しますが、こういった表現は皆さんもうおなじみでしょう。

表 2X のケースでは、以前はよく「温度 T における氷の蒸気圧 P。温度の単位は K、蒸気圧の単位は Pa。」 といった表記がありました。 けれども「温度の単位は K」というのが K を省略したという意味であれば、 物理量を記述する時、単位を省略しない約束があるのでルール違反ですし、 (温度を)温度の単位 K で割った数値という意味であれば、 T / K と書いた方がスマートです。 なお SI では、可読性を増すため数字が多数連なる時、3ケタ目ごとにスペースを入れることが許されています。 金額の表示で \12,345 などと、カンマで区切ることがありますが、 SI ではカンマで区切ることは許されていません (小数点をカンマで表示する国々も多いため)。

図 2X では軸に物理量ではなく、数値をプロットするので、 【物理量】/【単位】で示すことになります。 この際、直観的にみやすいように (1000/T) / K-1 などとせず、 図のように 1000 K /T としたりすることもよく行われます (量の四則演算 quantity calculus)。 図で 1000 /T = 2.690 K-1 という物理量をグラフ上の r = 5.38 cmの位置にプロットするのは、 数値 1000 K /T = 2.690 を、数値 r / (2 cm) に対応付けていることに相当しています。

表の例
表 2X. 温度 T における氷の蒸気圧 P
T / KP / kPa
273.160.611 657
273.150.611 15
2730.603 65
2720.555 70
2710.511 25
2700.470 06
2690.431 92
2680.396 62
2670.363 97
2660.333 79
(CRC Handbook 2012 より)
図の例

図 2X. 氷の蒸気圧 P の温度 T 依存性

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