ここでは先日、物質・材料系の技術職員の皆さんにお話した、 物理量の単位と数値の取り扱いについてのはなしを紹介しようと思います。 国際単位系 SI における物理量の表記に関わって2回生、3回生向けに話していたことなどに、 「測定における不確かさの表現のガイド」(GUM) の紹介を加える形で構成したのですが、 話題を広げ過ぎ消化不良に終わってしまったので、 まとめなおしてみました。
物理量の単位に関わって「国際単位系 SI(Système international d‘unités)を使おう」というのは、 皆さん、いやというほど聞いてこられたことでしょう。 そしてそういう話は、たいていの場合、「mmHg ではなく Pa を使う」、 「cal ではなく J を使う」といった単位の選択の問題、 一貫性のある(コヒーレントな)単位系の必要性という文脈で語られることが多かったのではないかと思います。 今回のおはなしは、そうした観点から少し離れて、 物理量の表現、「どう記述するか」ということに焦点をあてる形でお話ししようと思います。
物理量の表現に注目するわけですが、 SI の基本にある考え方は「物理量と数値、単位を区別する」 ということにあるといってよいでしょう。 このことは中学・高校の教科書と、 大学の専門の教科書を見比べるとはっきりします。 たとえば高校までの教科書は、典型的には次のように記載されています。
ある物質の温度を T1〔K〕から T2〔K〕に上げるのに必要な熱量 Q〔J〕は、 質量 m〔g〕と比熱容量 c〔J/(g K)〕から次のように求められる。
Q = mc (T2 - T1)
これが大学の教科書なら次のようになります:
ある物質の温度を T1 から T2 に上げるのに必要な熱量 Q は、 質量 m と比熱容量 c から次のように求められる。
Q = mc (T2 - T1)
共に同じ熱量と比熱容量の関係式について記述していますが、 高校の教科書では、 用いられる熱量や温度の記号について単位を付記して親切に見えます。 けれどもこの ”親切さ” が仇になり、 高校の教科書の数式は、物理量についての数式なのか、 数値についての数式なのか判然としなくなります。
「物理量と数値、単位を区別しよう」という理念は、 物理量の表現のありようなどにも反映され、 国際単位系 SI の文書の中でも規定されています。 このおはなしでは、 そもそもの物理量と数値、単位の区別にこだわる必要性、 そしてそれを ”形” にした、物理量や数値、単位の表現法を中心に紹介しようと思います。
*SI 文書の目次
SI 文書の構成は次のようになっています。 このお話ではもっぱら5章に注目することになります。
*一貫性のある単位系
今回のはなしではあまり触れませんが、 「一貫性のある単位系である」ということは、 物理量の関係式が、数値についてもそのまま成立することだと思っていただいてよいでしょう。 たとえば水中の音速 c について、水の密度 ρ、(断熱)圧縮率κ の間には、 次の関係が成り立ちますc2 = 1/(ρ κ)
ここで SI 単位を使っておれば、水中の音速 c ≈ 1500 m/s と水の密度 ρ ≈ 1000 kg m-3、 圧縮率 κ ≈ 4.5 × 10-10 Pa-1 の間に(1500)2 ≈ 1/(1000 × 4.5 × 10-10)
という関係が成り立っていることを、容易に確かめることができます。 ここで圧縮率の単位だけが psi-1 であったりすると(1 psi ≈ 6.9 kPa)、 単位の換算に悩むことになります。