2022.9
吉村洋介
化学実験 基本操作・測定

熱電対による温度測定

1.熱起電力と熱電対

抵抗線の両端に温度差があると、温度差に応じて電位差(熱起電力)が現れ(ゼーベックSeebeck効果。 熱電能などについては2回生実験のページも参照してもらうといいでしょう)、 抵抗線が同じ物質でできておれば、両端に生じる熱起電力は中間の温度によらず、両端の温度によって決まることが知られています。 このことを利用して、2種類の抵抗線・導線を組み合わせたもの(熱電対)で回路を構成し、 両者の熱電能の違いを測定して温度を測ることができます。 熱電対では高精度の測定(< 0.1 K)は難しいですが、簡便・迅速に温度の測定ができます。 通常よく使われるのは JIS にも規定された K 熱電対(クロメル-アルメル CA)と J 熱電対(鉄-コンスタンタン)です(JIS C1602)。 K、J 熱電対には冷接点補償機能の付いた専用 IC もあり、 学生実験で使用するアジレント社製のU1251Aなど最近の携帯型マルチメータの多くには、 測定した熱起電力を温度に換算して表示する機能が付いています。

それぞれの素線を用いて使う場合もありますが、ステンレスの鞘(シース)の中に封入した形で市販されているものも使われます。 また大規模な装置などで熱電対線を長く引き回すことが必要な場合については、 補償導線を用いた方が経済的です 。 ある程度精密な測定(~ ±1 K)の場合には、標準温度計を使ったりして較正を行った方がよいでしょう。 さらに精密な測定(~ ±0.1 K)の場合には、素線の歪が問題となり、 素線を加熱・徐冷して焼きなましを行うのが望ましいようです。

たとえばK 熱電対の室温付近の熱起電力は、安価な銅-コンスタンタン熱電対(T 熱電対)とほぼ一致します。 ですから高温の炉の内部から室温近くまでの部分にK 熱電対を、 そこから先、電圧計までの部分についてT 熱電対を使うことで、 あまり精度を落とさずに温度測定が可能です。 このような用途に用いられる熱電対線を補償導線といいます。 室温付近ではよく似た熱起電力を与えなすが、室温付近から外れるにしたがって偏差が大きくなるので、 熱電対線として使われているものと混同しないように注意が必要です。

表 1. 主な熱電対

記号材質(+/-)使用温度の目安*備考
Kクロメル/アルメル-200 °C~1000 °C熱起電力の温度変化が直線的で、腐食にも強い。4.10 mV (100 °C)
J鉄/コンスタンタン0 °C~ 600 °C熱起電力が大きい。5.27 mV (100 °C)
T銅/コンスタンタン-200 °C~ 300 °C電気抵抗が小さく、低温まで使用可。4.28 mV (100 °C)
Eクロメル/コンスタンタン-200 °C~ 700 °CJISの中では最も熱起電力が大きい。6.32 mV (100 °C)
Nナイクロシル/ナイシル-200 °C~1200 °C低温から高温まで広い範囲をカバー。2.77 mV (100 °C)
R白金/白金13%ロジウム**0 °C~1400 °C熱起電力は小さいが、高温まで耐え、腐食に強い。0.65 mV (100 °C)
*あくまでも目安。熱起電力が与えられている範囲はもっと広い。**他にS(白金-10 %ロジウム)B(30 %ロジウム-6 %ロジウム)などもある。

なお通常、実験室では熱電対線の素線に外径 0.3 mm 程度のものを用いることが多いですが、 温度変化に対する応答性を求める時にはもっと細い外径 0.1 mm(あるいはそれ以下)のものが用いられます。 一方、工業的な用途や電気炉などで、耐久性を重んじる場合には外径 1 mm 程度以上のものが使用されます (JIS 規格(JIS C1602)では、もっとも細い素線が 0.65 mm です)。

図 1. 熱電対による温度測定の模式図

2.マルチメータを用いた熱電対による温度測定

学生実験では K 熱電対線とマルチメータ U1251A を用いた温度測定を行います。 この操作は熱電対を用いて図 1 のような回路を構成して、C と A の熱起電力の差を測定していることになります。 マルチメータはマルチメータ自身の温度 TZ と回路の電圧 V を測定し、 プローブと抵抗線との接合部の温度 TY がほぼ TZ に等しいものとして、 測定した電圧から C と A の接合部の温度 TX を算出して表示します。 今回用いる K 熱電対は100 °C の温度差でおよそ 4 mV の電位を生じるので、 0.1 °C までの測定には数 μV オーダーの精度が必要になりますが U1251A は十分要求を満たしています。

図 1 の構成から明らかに、プローブと熱電対線の接合部を温めたり、室温が急に変化したりすると、 TY = TZ の要件が満たされなくなり、マルチメータは熱電対の接点 TX の温度を示しません。 したがって、測定に当たってはプローブとマルチメータ本体をできるだけ同じ温度条件に置くように留意します。 この不確かさを解消するには、氷水で 0 °C に保った保温容器に熱電対線と銅線の接点を浸して TY = 0 °C の条件を実現し、 マルチメータで電圧を読み取って K 熱電対の起電力の値を用いて温度に換算することが考えられます (電圧計しか利用できない時代にはこうやって測定していました)。

なおプローブのリード線に銅線ではなく熱電対線を用いれば、プローブとマルチメータ本体の温度差の問題はおおむね解消できます。 実際 U1251A 用に熱電対専用のプローブも市販されていますが、学生実験では採用していません。


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