2013.9.17.  last revised 2020.9.21.
吉村洋介

5.測定上の留意点

図 5-1. CHEMUSB 4で観測した、種々のpHにおけるフェノールレッドの吸収スペクトル。

CHEMUSB 4で測定できる吸光度の精度は、吸光度が1ぐらいまでででおよそ±0.01。 吸光度が1.5を超えるとかなり苦しくなります。 また光源が安定していないと、ベースラインの変動が起きます。 D2ランプの強度変化の場合には、656 nm付近に鋭いピーク(あるいは切れ込み)が現れるので、このあたりははっきりわかります。 図4-1はフェノールレッドの吸収スペクトルのpH依存性を測った結果です。 等吸収点も得られ、おおむね期待通りの結果ですが、こうした問題が現れていることが見て取れます。 pH 13で560 nm付近の吸収が大きくなり吸光度が2近くになるとピーク付近にノイズが現れます。 またリファレンスを取った時点ではまだ光源が不安定だったと見えて、 656 nm付近に若干の切れ込みが見えています(測定中にD2ランプの強度が増したため、見かけ上発光が現れる)。


写真 5-1. CHEMUSB 4 の光学セルのホルダー部分を上からのぞいたところ。 下方に光学セル固定のための調節ねじが見える。

実際の測定で問題になるのは、光学セルの固定の問題です。 CHEMUSB 4には標準型の角セルを固定するようにネジが付いているのですが、何回か測定するとゆるんできてガタつきます。 特に容量1 ~2 mL程度のセミミクロ型の光学セルの場合には、これでは固定できません。 薄いゴムの板をあてがったりといったお手軽な試みもしてみたりしたのですが、決定版と言えそうな方法はまだなく、今も模索中です。


ソフト面では測定・制御用のソフトとしてSpectraSuiteを使用しているのですが、 これが慣れるまでなかなか難物です。 このソフトはJavaの上で走っていてOSによらずに使用可能です。 しかしPCを起動してしばらくしてJavaの環境がPCに組み込まれるまでにCHEMUSB 4をUSBで接続すると、PCが正しく認識してくれません。 またデータ取り込み中に終了するとフリーズする、データをセーブするのにSDカードなどアクセスに少し時間のかかる媒体を使用すると強制終了してしまうなどといった事態も起きます。 このあたりはPCを再起動すればよいのですが、プリンターへの出力に異様に時間がかかる(~20分)、 レイアウトの自由度があまりないというのは困りもので、当化学教室では一端スペクトルはテキストファイルでセーブし、 グラフ作成ソフト(Igor Pro)で描画してプリンター出力するという手順を踏むことにしています。

故障・メンテナンスに関わっては、この4年近くで昨年1月に1台のランプが切れて交換したのが最大のトラブルでしょうか。 装置の修理・ランプ交換は、 装置がコンパクトなので、サービスマンに来てもらうのではなく、装置をOceanOpticsに送り返す形になりました。 問題が起きたのが実験最終日だったのであまり焦らなかったんですが、なおるまで1カ月ぐらいかかりました(金額は10万円余り。痛い)。 全体として言うと、従来の分光光度計と比べてグレーティングやフィルターを動かす可動部がないので、故障は少ないように感じています。

この他にトラブルとしては、稀にCHEMUSB 4のEEPROM(機器の設定情報や基本プログラムが書き込まれているメモリ)が消えてしまうことが起きます。 年に2回ほど起きるのですが、特に決まった装置に起きるわけでもなく、静電気が原因かとも思うのですが、夏場でも冬場でも起きて、頭の痛い問題です。 この「EEPROM Missing」が起きた時は、 ちょっとドキドキしながら、OceanOpticsのホームページからダウンロードできる「USB EEPROM Programmer」 を使ってファームウェアの組み込みを行うことになります。

こういった難点、特にソフト上の問題は今後のメーカー側の改善に期待するところ大です。 しかし学生実験の立場から言うと、こうした問題があることが、装置を単なるブラックボックスではなく、 身近な生々しい測定装置にしてくれているようにも感じています。


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