温度の単位として、国際単位系 SI ではケルビン K を用います。 ケルビンは水の三重点を 273.16 K とする熱力学的な温度のものさしといえます。 水の三重点は、真空に保った容器の中に水と氷と水蒸気を共存させることで、比較的簡単に実現できます。
日常的にはセルシウス度(摂氏)も広く用いられ、SI でも使用が認められています。 セルシウス度はケルビンから 273.15 K を引いたものとして定義されています。 (元は水の融点を 0 °C、沸点を 100 °Cとする目盛でした。さらに言うと元来は、融点を 100、沸点を 0 としていました。)
◆温度 T1 と T2 (T1 > T2) の間で動作する熱機関の最大効率は(T1 - T2)/T1 に等しい。ある基準温度 T0 を定めれば、測定しようとする物体の温度 T との間で作動する熱機関を考え、その最大効率 w を求めることで、温度 T は (1 - w) T0 (← T < T0) あるいは T0/(1 - w) (← T > T0) で定義されます。
ところでケルビンとセルシウス度では、いわば「原点」がちがうだけで、目盛りの間隔は同じです。 山の高さについて「標高」とただの「高さ」を区別するようなものですから、長さの単位がメートルであるように、ケルビンとセルシウス度に共通する、温度の目盛りの間隔に関わる単位を考えることもできるでしょう。 実際かっては(1960年代まで)、「温度」と「温度差」を異なる概念としてとらえ、「温度差」は deg (degree) を用いて表記することになっていました。 今では区別せず、共にケルビン K で表示することになっていますが、古い本を読む時などには注意してください。 (当時ケルビンは °K と表記されていました。これはケルビンが「標高」に相当するものを表現し、「単位」でなかったことによります。)
◆烈氏(Réaumur, 1730年):氷点0 °R、水の沸点80 °R とする温度目盛り。 (水アルコールの混合液体が、100 °Cで 8 % 膨張したことから)
(2) 温度領域ごとに、温度定点を補間する測定法(室温を含む幅広い領域(13.8033~961.78 K)については白金抵抗温度計)
なお ITS-90 では非常に精度の高い定義定点以外にも、精度の高い標準となるものが規定されていて、日常的な温度の校正などには十分使えます。 以下は室温付近の温度定点の例です(水の沸点が正確には 100.00 °Cではなく、99.974 °C になっていますね)。
物質 | 状態 | 温度 / K | 不確定度 |
水 | 氷点 | 273.15 | |
ジフェニルエーテル | 三重点 | 300.014 | 0.001 |
エチレンカーボネート | 三重点 | 309.465 | 0.001 |
コハク酸ニトリル | 三重点 | 331.215 | 0.002 |
水 | 沸点 | 373.124 | 0.001 |
安息香酸 | 三重点 | 395.486 | 0.002 |
安息香酸 | 融点 | 395.502 | 0.007 |
ガラス温度計と言われるものは、ガラスの細管の中に感温液を入れ、液柱の位置から温度を読むようにしたものです。 通常使われるガラス温度計は、感温液により大きく水銀温度計と有機液体温度計(アルコール温度計、赤液温度計とも)に分けられます。
◆有機液体温度計:
精度は水銀温度計より劣りますが、細管を太くでき、感温液に色素を溶かして着色したりできるので見易い温度計です。
何といっても安価です。
感温液を変えることで、-200~200 °C ぐらいの温度範囲をカバーできます。
有機液体としては白灯油(ケロシン)、トルエン、工業用ペンタン(低温用)などが用いられます。
よく「アルコール温度計」と呼ばれますが、今日アルコールを感温液に用いた温度計はまずありません。
0 °Cから100 °Cまで温度上げた時の液体の膨張の度合い - (ρ100 - ρ0)/ρ50 を示すと、次のようになっています (ρt は、t °Cでの密度): デカン: 0.109、エタノール: 0.156、トルエン: 0.103、水銀: 0.0181
○時間遅れ:
測定するものの熱容量・熱伝導度にもよりますが、精密な測定には1分ぐらいは必要です。示度が落ち着くまでよく待ちましょう(電子体温計では、最終の平衡温度を温度変化の時間変化から予測して表示しています)。
○浸没:
温度計に何も書いていなければ、目盛りの所までを測定する温度にした状態(全浸没)で、温度計の目盛り付けがなされています。
測定に当たって、温度計の目盛り部分が測定する物体と異なる温度になっていると、液体の膨張・収縮によって温度計の示度は影響等を受けます(特に足長の温度計では注意)。
特に有機液体温度計で影響が大きく、たとえば測定している物体の温度が 100 °Cで、0 °C~ 100 °Cの目盛りの部分が室温 20 °Cになっていたとすると、約 8 % 程度、8 °Cほど低めに温度を読むことになります(実験参照)。
水銀温度計ではこれよりましですが、それでも示度が 1.4 °Cほど低くでることになります。
今回の学生実験では特に融点測定や蒸留操作の時、浸没の影響が重要になります。 たとえば蒸留に用いる専用の温度計には、温度計を浸ける位置を規定(部分浸没)して目盛り付けしてあり、温度計に「浸」「immersion」などと書いた目盛りが振ってあります。 それを有り合わせの全浸没型の温度計で代用すると、得られる蒸留温度は低めに出ることになります。
なお浸没の問題を特に考慮して細管を2本用いた温度計も作られています。
○その他:
零点降下、零点上昇、圧力の影響を考慮しないといけない場合もあります。
また食品関係では水銀を使わないにこしたことはありません。
・標準温度計
たいていの場合、メーカーの検査成績書が付いてきます。
・薬局方温度計(試薬試験用温度計)
浸線付です。
日本薬局方で規格が定められています。
日本計量振興協会(計量協会、計量管理協会、計量士会が2000年4月に合併して発足)などの検査表が付いてきます。
薬局方でこうした温度計が規格化されているのは、融点が薬品の純度・同定の重要な指標になる(なっていた)からです。
・乾湿計
湿度を水の蒸発による温度の低下の度合いで測ります。
ガーゼは分厚く巻かずに一重に巻くぐらいでよいのです。
なお水の蒸発にともなう温度低下は風速にあまり依存しませんから、普通に使う分には扇いだりしなくてもよいのですが、精度のよい結果を得るため、強制的に風を送る通風乾湿計もあります。
・最高最低温度計
留点機構を備えた水銀毛管温度計(一昔(二昔?)前の体温計)が、今も最高温度計として用いられていることがあります。
なお最低温度計としては毛管内に指標(インデックス、「虫」と呼ばれる)を封入したアルコール温度計が用いられています(した)。
2つの導体を組み合わせて両者の熱電能の違いを測定することで温度を測ることができます(→ 熱電対)。 高精度の測定(< 0.1 K)は難しいですが、幅広い温度領域について、簡便・迅速に温度の測定ができます。 種類がさまざまありますが、通常よく使われるのは JIS にも規定された(JIS C1602)、K 熱電対(クロメル-アルメル CA)、J 熱電対(鉄-コンスタンタン)、E 熱電対(クロメル-コンスタンタン)です。 K、J熱電対には冷接点補償機能の付いた専用 IC も市販されていて便利です。
材質(+/-) | 使用温度の目安* | 備考 | |
K | クロメル/アルメル | -200 °C~1000 °C | 熱起電力の温度変化が直線的で、腐食にも強い。4.10 mV (100 °C) |
J | 鉄/コンスタンタン | 0 °C~ 600 °C | 熱起電力が大きい。5.27 mV (100 °C) |
T | 銅/コンスタンタン | -200 °C~ 300 °C | 電気抵抗が小さく、低温まで使用可。4.28 mV (100 °C) |
E | クロメル/コンスタンタン | -200 °C~ 700 °C | JISの中では最も熱起電力が大きい。6.32 mV (100 °C) |
N | ナイクロシル/ナイシル | -200 °C~1200 °C | 低温から高温まで広い範囲をカバー。2.77 mV (100 °C) |
R | 白金/白金13%ロジウム | 0 °C~1400 °C | 熱起電力は小さいが、高温まで耐え、腐食に強い。他にS(白金-10 %ロジウム)B(30 %ロジウム-6 %ロジウム)もある。0.65 mV (100 °C) |
― | クロメル/金(鉄) | -269 °C~30 °C | 極低温測定用の熱電対。 |
それぞれの素線を用いて使う場合もありますが、ステンレスなどの鞘(さや。シース)の中に封入した形で市販されているものもよく使われます。 また離れた地点の温度を測定する場合には、室内などで温度変化の小さいところに、熱電能の特性がよく似た安価な材料でできた「補償導線」を用いることもよく行われます。
・素線の材質の不均一性や歪(ひずみ)による影響があるので、熱電対を用いて 1 K 以上の精度の温度測定をする際には、あらかじめ精度の高い温度計を用いるか、適当な温度定点で校正をしておく必要があります。
・熱電対を多数直列につないで、放射熱を調べるサーモパイル(熱電堆)とよばれるものもあります。 同様の手法は、微小な温度差を調べる場合にも有効です。
焼結体なので、安定性に難のある場合が多いようです。 そして熱伝導率があまり大きくないので、発熱にも注意が必要です。 また電子回路の温度補償用のディスク型のものが多数出回っていますが、温度の測定にはビーズ型の方が安心です。
化学的に安定で高温にも耐え、高精度の温度測定に賞用されます。 国際温度目盛 ITS-90 でも、-260 °Cぐらいから 700 °Cぐらいまで、ほぼ 1000 K に亘る範囲は、白金抵抗温度計で測定することになっています。 抵抗値としては0 °Cで100 Ωのものがよく用いられていて、通常シース(鞘)に入った形で使用されています。 白金素線を用いたもの以外に、白金薄膜を用い小型チップにしたものの市販され、抵抗値が高いものも利用できるようになってきました。
現在のJIS規格(JIS C1604)では、0 °Cから100 °Cまでの温度変化で抵抗が1.3851倍になるように設定されています。 温度に対する感度があまり高くないので、高精度の測定のための回路の設計には注意が必要です。