弱酸・弱塩基は水溶液中で、水素イオンを放ちあるいは取り込んで、その一部が共役塩基・酸として存在する。 この実験では、弱酸・弱塩基を希釈することにより、希釈度と解離平衡との関係を考察する。 また中和滴定を行うことにより、弱酸{共役酸}の解離定数、当量点を求める。強酸・強塩基の挙動と比較することによって、 弱酸の性質およびpHの原理に対して理解を深める。
最初に以下の溶液を調製する。 これらの溶液は次の「緩衝液の調製とその性質」でも使用する。 弱酸を扱うグループと、弱塩基を扱うグループで調製する試薬、量が違うので注意。
【弱酸を取り扱うグループ】ここの実験では弱酸・弱塩基の、希釈にともなう pH 変化、 強塩基・強酸を加えた時の pH 変化を、 それぞれ調べて酸解離定数 pKa と結び付けて議論します。 HA ⇌ H+ + A- という酸解離平衡を考えれば 次の関係が成り立ちます。
\[ {\rm{pH = p}}K_{\rm{a}} + \log \rm{\frac{[A^{-}]}{[HA]}} \]
先にも触れましたが、この実験では pH ±0.01 程度の精度の測定を行います。 ですから溶液の濃度の精度も 1 %(Δ log c ≈ 0.43 Δ c/c)程度あればよいわけです (ただしヘンダーソン-ハッセルバルヒの式の検討の際のように、 \(\rm{[HA] \ll [A^{-}]} \) となるような当量点の付近の挙動については 1/1000 オーダーの細心さを期待したいところ)。
この点、ここで不安があるのは酢酸や水酸化ナトリウムで、 そもそもの試薬に数%のオーダーで水を吸ったりしていることがあるので、 試薬の純度を 100 % として重さをはかるだけでは精度が不十分。 そこで市販の標定済み塩酸を利用して、滴定で濃度を決める操作を入れています (水酸化ナトリウムは二酸化炭素をかなり吸っている場合があるのですが、 ここら辺は pH 曲線から判断することになります)。 1/100 オーダーの精度でよいので、 乳酸の分析や合金の分析での扱いよりは、 気軽に標定操作はしてもらえばよいでしょう。 また溶液の調製には、積極的に溶液の秤量を取り入れることにしています。 0.01 g まではかれる天秤には、ホールピペット並みの精度が期待できることに注意します。
なお標定済み塩酸としてはもっと濃度の低い 1 mol/L 程度の塩酸の方が望ましいのですが、 実験基礎の「セスキ炭酸ナトリウム(トロナ)の塩酸への溶解」で使う関係で、 5 mol/L の塩酸を採用しています。
弱酸 HA ⇌ H+ + A- と弱塩基 B + H+ ⇌ BH+ の酸塩基平衡については、 いわばネガとポジの関係にあって、 どちらか一方について実習すれば十分という考え方もあるでしょう。 けれども実際の場に立つと、意外に戸惑うもの。 また塩効果や二酸化炭素の影響などについては、それぞれの個性が出ます。 そこで以前は弱酸、酢酸に注目する形で課題を設定していたのですが、 弱塩基についても触れておいてもらうのがよいだろうと考え、 2003年度から「酢酸組」と「トリス組」の2組に分けて実施する形をとるようにしました。
最初は入り混じる形で組み分けをしてみたのですが、 試薬の取り違えも起きたりして、結局、酢酸組とトリス組をそれぞれ固める路線にしました。 大きく実験室北側と南側の2つのシマに分けて、 それぞれに酢酸とトリスの課題を割り振るようにしたわけです。 そして互いの実験結果を「まとめの会」などに持ち寄って、 知見を交流しあうことを期しました。
このようにして、以前は弱酸と弱塩基、それぞれの挙動のちがいを見比べて考えてもらえていたように思うのですが、 このところ目先の課題をこなすのに手いっぱいで、隣の様子を見る余裕が持てないグループが多いようです。 そもそもが互いのコミュニケーションが希薄になっている、 特に化学に関して議論しあう空気が希薄になっているのを感じます。 何かやり方を考え直すべきところに来ているのでしょう。