今日 Zernike-Prins の論文は、 X線回折による液体の構造解析の基礎を与えた論文としてもっぱら知られていると思われます。 しかし Zernike-Prins の論文は、 その手法が今日的な液体論からは異端的なものであるにせよ、 液体の動径分布関数に対する、 厳密な解を与えた論文であったことは忘れられてはならないでしょう。 特に(今日の目から見て)安易に状態和・母関数の方法に腰をおろさず、 確率過程論の立場から液体構造に迫るそのアプローチは、 われわれが忘れていた、手ごたえの確かな、別の液体の物理化学の姿があることを示してくれています。
液体の化学にはいろんな理解のスタンスがあります。 電気的な特性に注目する人の見るものは、 力学特性や音波に注目する人の見るものとは、 おのずと違ってくるでしょう。 1次元の最近接相互作用流体については、厳密な統計力学的表式が存在し、 ある意味、完全に分かっている流体です。 けれどもそうした1次元流体に対しても、いろんな切り口があり、 それぞれに特色ある液体のプロフィルをわれわれに告げ、 あるいはわれわれの従来の液体の理解のスタンスが何ものであったかを教えてくれます。
たとえばぼくのように圧力・体積という量に深い関心を抱く人間にとって、 外部から加える圧力が、そのまま分子に働く応力に等しくなるというのは、 1次元流体の特筆すべき性質として映ります。 そしてそれは単にぼくの問題関心に閉じるものではなく、 多くの人々が3次元の現実系に対して、 暗黙のうちに思い描いてきたものに繋がるものではないでしょうか。 そしてその思いが、多くの圧力一定の条件下での実験を(暗黙のうちに)合理化してきたのではないでしょうか。
X線の回折から見えてくるものが、統計熱力学的な取扱いと平行関係にあることも興味深いことです。 式の上から言えば、X線の回折は、距離とともに振動する力を付加したことになっているわけですが、 そのことと回折実験の間の関係には、まだ何か秘密があるようにも思えます。 またさらに言うと、全相関関数と直接相関関数、動径分布関数と最近接対間分布関数、 それぞれの関わりの類似性も、何かを物語ろうとしているようです。 そうした所に、何かドキドキするもの、心ときめくものをぼくは感じ、 また液体の物理化学の所在もあるように思っています。