弱酸 HA が解離平衡 HA ⇌ H+ + A- にあり、酸 HA と共役塩基 A- の示す色が大きく異なるなら、 pH を変化させることで色の変化を引き起こすことができます。 また逆に色の変化から pH の変化を知ることができます。 pH と解離定数 Ka = [H+][A-]/[HA] を用い、次の関係が成り立ちます。
log [A-]/[HA] = pH - pKa
pH が pKa 近傍の値で、 酸濃度 [HA] と共役塩基濃度 [A-] の大小関係の急激な逆転が起きることになります。 酸塩基指示薬は、この逆転にともなう変色が明瞭なものといえます。 多数の酸塩基指示薬が知られていますが、表 1 には主だった酸塩基指示薬をまとめました (JIS と CRC Handbook of Physics and Chemistry 2012 によります)。 なお、表には単独物質を用いた指示薬をまとめていますが、 2種以上の酸塩基指示薬を配合した指示薬も用いられます (学生実験でもブロモクレゾールグリーン-メチルレッド混合指示薬を使用します)。
指示薬溶液の調製法には、指示薬の溶解度、変色の明瞭さ等を加味し、種々の流儀があります。 ここにはもっぱら JIS K8001「試薬試験方法通則」に準じた方法を示してあります。 ここでいう試薬の 0.1 % や 1 % は質量体積百分率 w/v% であり、エタノール(50%)などは体積百分率 v/v% です (「溶液の濃度の表現」参照)。 また JIS ではエタノールとして 95 v/v%のもの(共沸組成)を使用することになっています。 なおここに挙げた以外にも、たとえば小学校でも習うフェノールフタレイン指示薬の場合、0.5 %エタノール(50 %)溶液にする派、 0.1 % エタノール溶液にして多量に滴下する派等があり、 BTB については「0.1 g を 16 mL の 0.01 mol/L 水酸化ナトリウム溶液に溶かし、水で 250 mL に希釈する」という処方もあります。
指示薬 | pKa | 色と変色 pH 域 | 典型的な調製法 | ||
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チモールブルー TB(酸性側) | 1.65 | 赤 | 1.2 - 2.8 | 黄 | 0.1 %エタノール 溶液* |
(塩基性側) | 9.20 | 黄 | 8.0 - 9.6 | 青 | |
ブロモフェノールブルー BPB | 4.10 | 黄 | 3.0 - 4.6 | 青紫 | 0.1 %エタノール(50%) 溶液 |
メチルオレンジ MB | 3.46 | 赤 | 3.1 - 4.4 | 橙黄 | 0.1 % 水溶液 |
ブロモクレゾールグリーン BCG | 4.90 | 黄 | 3.8 - 5.4 | 青 | 0.1 % エタノール(50%)溶液 |
メチルレッド MR | 5.00 | 赤 | 4.2 - 6.2 | 黄 | 0.1 % エタノール溶液 |
ブロモチモールブルー BTB | 7.30 | 黄 | 6.0 - 7.6 | 青 | 0.1 % エタノール(50%)溶液 |
フェノールレッド PR | 8.00 | 黄 | 6.8 - 8.4 | 赤 | 0.1 % エタノール溶液** |
フェノールフタレイン PP | 9.5 | 無色 | 7.8 - 10.0 | 紅 | 1.0 % エタノール(90%)溶液 |
チモールフタレイン TP | 9.7 | 無色 | 8.6 - 10.5 | 青 | 0.1 % エタノール溶液 |
** JIS K8001 には記載がありません。JIS の中には 「0.10 gを0.02 mol/l水酸化ナトリウム溶液 14.2ml と水で溶解し,水を加えて全量を250 mlとする」(JIS K1513)、 「0.02 gをエタノール (95) 20 mlに溶かし、塩化ナトリウム0.02 gを加え水で100 mlにする」(JIS K9902) といった記載が見られます。
なお表中、pKa は変色 pH 域の中央に来るとは限りません。 これは視認しやすさを考慮する必要があるためで、人による主観的な要素があり、 実際、文献によって変色 pH は少し異なります。