酸塩基反応同様に、電子の移動を中心に反応を構成することもできます。 酸化数 oxidation number は形式的に原子に関する電子の移動を記述する上で便利な概念です。 (無機化合物の命名においては、硫酸鉄(II) iron(II) sulfate(以前は硫酸第一鉄ferrous sulfate)など、 ローマ数字で酸化数を示すストック方式(Stock method)が広く普及しています)
酸化数は概ね、次のような規則に則って決めます:
たとえば KMnO4 で、Mn の酸化数は+7、K2MnO4 中では +6、 MnO2 中では +4 です。 複雑な化合物では、酸化数の割り当てにあいまいさの生じる場合がありますが、 化学反応の量論係数を考える上で大きな支障の起きることはまずありません。
多くの場合、化学反応で酸化数の変化が起きるのは、 反応中心を占める1対の原子 X と Y についてです (というかそのように酸化数を割り振っている)。 これを形式的に次のように整理します(電気化学の畑で半電池反応half-cell reactionと呼ばれるものに相当):
Xred → Xox + m e-
Yox + n e- → Yred
ここで m、n はそれぞれ X、Y の酸化数の増加量、減少量を示します。 酸塩基反応同様に、酸化還元反応についても次のような分数係数の化学反応を考えることで、 反応相手によらず量論係数を同じに取ることができ、 化学当量、また規定度と呼ばれる濃度単位が導入できます。
(1/m) Xred → (1/m) Xox + e-
(1/n) Yox + e- → (1/n) Yred
たとえばアルミニウムと塩化銅の反応では
(1/3) Al + (1/2) CuCl2 → (1/3) AlCl3 + (1/2) Cu
という式が得られます。
酸化還元反応をいくつか組み合わせた場合など、 化学当量を考えると見通しがよくなります。 たとえばヨウ素滴定で銅の定量を行う際には、 銅(II)の溶液にヨウ化カリウムの溶液を加えると、 ヨウ化銅(I)の沈殿が生成し同時にヨウ素で溶液が赤褐色になります。 それをハイポの溶液でヨウ素の色が消えるまで滴定するわけです。 ですから次の4つの反応が関与する形になります。
Cu2+ + e- → Cu+
I- → (1/2) I2 + e-
(1/2) I2 + e- → I-
S2O32- → (1/2) S4O62- + e-
量論関係だけに注目すると次の反応に尽きます。
Cu2+ + S2O32- → Cu+ + (1/2) S4O62-
酸化還元反応と酸塩基反応が相伴って起きることはよくあります。 こうした場合には、中間に電子、水素イオンのやり取りの過程を想定することで、 量論係数を定めることができます。 たとえばマンガン酸が過マンガン酸と二酸化マンガンに不均一化する反応を考えてみましょう。
a MnO42- + b H+ → c MnO4- + d MnO2 + e H2O
この反応の係数は次のような手順で決めることができます。
3 MnO42- → 2 MnO4- + MnO2 + 2 O2-
(2) 酸塩基反応整理すると
3 MnO42- + 4 H+ → 2 MnO4- + MnO2 + 2 H2O
同様に最初に登場した (2.2) 式の銅が硝酸に溶ける反応では、係数を次のようにして決定することができます。
3 Cu + 2 HNO3 → 3 Cu2+ + 2 NO + 3 O2-
(2) 酸塩基反応3 Cu + 2 HNO3 + 6 HNO3 → 3 Cu2+ + 2 NO + 6 NO3- + 3 H2O
整理して下式を得る:3 Cu + 8 HNO3 → 3 Cu(NO3)2 + 2 NO + 3 H2O