last revised 2022.3 / 2020.5
吉村洋介

5 合金の分析

われわれの出会う物質は通常、気体・液体・固体などさまざまな状態で存在し、 また多様な成分からなる。 化学はそうした物質の姿をその成分・質の面から理解する学問といえよう。 したがって物質の元素組成は化学にとって最も基本的な知見である。 ここでは洋白(銅・亜鉛・ニッケルを主成分とする合金。洋銀)を題材に、その元素組成の決定法を実習する。

まず準備されている試料を硝酸に溶解する。 その溶液について、銅はヨウ素滴定法で、ニッケルはジメチルグリオキシム塩として分離した後、キレート滴定法で、 亜鉛は陰イオン交換樹脂を用いて分離した後、オキシン錯体の重量分析でそれぞれ定量する。 実験時間が不足した場合は亜鉛の重量分析の代わりにキレート滴定による定量を行う。 なお洋白には鉛、鉄などが含まれている場合があるが、 本実験で用いる試料についてはこれらの含有量が低い(総量が0.3%程度)ので、分離・定量に関わる操作は行わない。 星印(*)の付いている指示薬類は準備してあるものを使う。 以下に示す一連の実験を各自、試料溶液の調製から始めて行い、銅、亜鉛、ニッケルがもとの洋白に質量%でそれぞれ何%ずつ含まれていたかを決定せよ。 実験進行の目安としては第1週に「6-3 ニッケルの分離と定量」まで終了しておくのが望ましい。 なお観察される定性的な現象の記録を怠らないこと。

合金の分析は、学生実験の最初の山場と言っていいでしょう。 いろいろ足慣らしをしてきて、 ここで”覆面試料”を対象に、未知なる 1/1000 の精度の頂を目指そうというわけです。

現行の「合金の分析」の構成は、ずいぶん以前に紹介した 「合金の分析」ノート と大きく変わっていません。 分析の対象とするのは洋白で、銅・ニッケル・亜鉛の量を分析することになります。 銅はヨウ素滴定で、ニッケルはジメチルグリオキシムで沈殿分離・キレート滴定で、 亜鉛はイオン交換樹脂で分離後、オキシンで沈殿させて重量分析(失敗したりして日程的に厳しい時はキレート滴定)という形です。 日程的には実験は2週6日で行い、初日に試料(伸銅協会提供の化学分析標準試料)を溶解させて試料溶液を作り、 1(~2)日目に銅の分析、2~3日にニッケルの分析、そして後は亜鉛の分析といった流れになっています。

  1. 試料の溶解  ☆予習チェックのページへ
  2. 銅の定量  ☆予習チェックのページへ
  3. ニッケルの分離と定量  ☆予習チェックのページへ
  4. 亜鉛の分離と定量  ☆予習チェックのページへ

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例年ぼくは課題の説明に当たって、 下のような注意書きを学生さんに示すことにしていました。

実験に当たって、学生諸君にぼくが特に強調したいのは、 一つ一つの作業を確実に積み上げていくということ、 そして「休憩も仕事の内」ということです。

えてして滴定の際の終点の判定にばかり気を取られる人がいます。 しかしたいていの場合、結果は滴定操作を始めるその時点までに決まっているのです。 試薬瓶の共洗いを忘れる。 攪拌に使ったガラス棒をそのまま取り出して机の上に置き、 付着している溶液をロスする。 ろ液を取る時にろ紙の洗浄を忘れる。 ラベルを取り違える。 等々、何でもないようなところに、いっぱい落とし穴はあります。 それを確実にこなしていくには、無論、実験に集中しないといけませんが、 抜けるところは抜くということも大切。 化学実験では午後1時から5時ぐらいまでの実験時間中、特に休憩時間というのを設けず、 各自のテンポで実験できるようにしているのですが、 まさに無補給・無休憩で作業を続け、 ちょっとした意識の空白の間にとんでもない失敗をしてしまうことがあります。 ですからガラス器具の破損などをした学生には、 学生の様子を見ながら、外に出て空気を吸ってくるように言い渡すのも必要かと思います。


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